虫干むしぼし)” の例文
旧字:蟲干
結局は甲冑の如く床の間に飾られ、弓術の如く食後の腹ごなしにもてあそばれ、烏帽子えぼし直垂ひたたれの如く虫干むしぼしに昔しをしのぶ種子となる外はない。
小供のとき家に五六十幅のがあった。ある時は床の間の前で、ある時は蔵の中で、またある時は虫干むしぼしの折に、余はかわる交るそれを見た。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その鏡はなんとかいう寺の宝物のようになっていて、明治以後にも虫干むしぼしの時には陳列して見せたそうであるが、今はどうなったか判らない。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
渋江氏は比良野貞固さだかたはかって、伊沢氏から還された書籍の主なものを津軽家の倉庫にあずけた。そして毎年二度ずつ虫干むしぼしをすることに定めた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そりや無論むろん道具よ。女に道具以上の價値かちがあツてたまるものか。だがさ、早い話が、お前は大事な着物を虫干むしぼしにして樟腦しやうなうまで入れてしまツて置くだらう。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
昨日から寺西家では虫干むしぼしが始まつて居るんだ相で、土用干といふ位だから、土用中にやるのかと思つたら、土用中は濕氣があるから、秋口になつてやる方が宜いんですつてね。
不昧公は千家へく途中で、急にその日は大徳寺に宝物ほうもつ虫干むしぼしがある事を思ひ出した。
それでいて、十代の娘時分から、赤いものが大嫌いだったそうで、土用どよう虫干むしぼしの時にも、私は柿色かきいろ三升格子みますごうしや千鳥になみを染めた友禅ゆうぜんほか、何一つ花々しい長襦袢ながじゅばんなぞ見た事はなかった。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
納戸なんどへ入って、戸棚から持出した風呂敷包ふろしきづつみが、その錦絵にしきえで、国貞くにさだの画が二百余枚、虫干むしぼしの時、雛祭ひなまつり、秋の長夜ながよのおりおりごとに、馴染なじみ姉様あねさま三千で、下谷したや伊達者だてしゃ深川ふかがわ婀娜者あだもの沢山たんといる。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虫干むしぼしおいの僧訪ふ東大寺
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
虫干むしぼしの日に現れたる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ちゝつけで、毎年まいねんとほ虫干むしぼし手傳てつだひをさせられるのも、んなときには、かへつて興味きようみおほ仕事しごと一部分いちぶぶんかぞへられた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
屋敷の名は明らかに云うわけには行かないが、自分は西国さいこくの或る藩中に勤めている者で、あの生成の仮面は主人の屋敷で当夏虫干むしぼしのみぎりに紛失したものである。
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
毎年まいねん一度の虫干むしぼしの日ほど、なつかしいものはない。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ぢや、氣紛きまぐれわたくし虫干むしぼしになさるんですか。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
むらさき裾模様すそもやうの小そでに金糸の刺繍ぬひが見える。袖からそで幔幕まんまくつなを通して、虫干むしぼしの時の様にるした。そでは丸くてみぢかい。是が元禄げんろくかと三四郎も気がいた。其外そのほかにはが沢山ある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「もう虫干むしぼしをなさいますの。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)