くゆ)” の例文
花鬘けまんをそのくびにかけ、果を供え、樟脳しょうのうに点火してくゆらせ廻り、香をき飯餅を奉る、祠官神前に供えた椰子を砕き一、二片を信徒に与う。
寺の御堂にも香の煙くゆらし賽銭さいせんさえあがれるを見、また佐太郎が訪い来るごとに、仏前に供えてとて桔梗ききょう蓮華れんげ女郎花おみなえしなど交る交る贈るを見
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
(やはり、ゆかしいものがある……)とそこらの調度や、どこかでくゆらしている香木こうぼくのかおりにも、そう思えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
線香のにおいは藤尾の部屋から、思い出したように吹いてくる。燃え切った灰は、棒のままで、はたりはたりと香炉の中に倒れつつある。銀屏ぎんびょうは知らぬくゆる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日しも盆の十三日なれば精霊棚しょうりょうだな支度したくなどを致してしまい、縁側へちょっと敷物を敷き、蚊遣かやりくゆらして、新三郎は白地の浴衣ゆかたを着、深草形ふかくさがた団扇うちわを片手に蚊を払いながら
右紅毛の伴天連ばてれんろどりげ儀、今朝こんてう伊留満いるまん共相従へ、隣村より篠宅へ参り、同人懺悔こひさん聞き届け候上、一同宗門仏に加持致し、或は異香をくゆらし、或は神水を振りそそぎなど致し候所
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
把る手もくゆるばかりなのを膝の上に置いて、兼好はしばらくじっと思案していたが、やがて机の上から筆と硯とを取り寄せて、夏毛の鹿の筆を染めて「なよ竹の」と美しい墨色で書いた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
詮じ来れば是唯物質的の文明に過ぎず、是を以て其文明の生み出せる健児も、残念ながら亦唯物質的の人なるのみ、色眼鏡を懸け、「シガレット」をくゆらし、「フロック、コート」の威儀堂々たる
支那しな東京錦とんきんにしきの重々しいふちを取ったしとねの上には、よい琴が出ていて、雅味のある火鉢ひばちに侍従香がくゆらしてある。その香の高い中へ、衣服にたきしめる衣被香えびこうも混じってくゆるのが感じよく思われた。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
善主麿ぜんすまろ今日けふいのりたまくゆりこがるる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くゆ続松ついまつ、油の火、蝋の火微かに
ほのかにくゆ五月野さつきの
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かぜまたくゆ小雨こさめしぬ。
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
ほのかにくゆぢんかう波羅葦増ハライソのゆめ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くゆりとぶ真夏まなつひる
文月のひと日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
文月ふづきのゆふべ、蒸しくゆ三十三間堂さんじふさんげんだうおく
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そがなかにくゆりにし
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)