蒲柳ほりゅう)” の例文
まさか、人目にとやこういわれるほどのことではあるまいが、弟は、自分とちがって、蒲柳ほりゅうだし、優しいし、それに、意志がよわい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに高価ですから民衆の日々の生活に交るわけにはゆきません。えた仕事ではありますが、人間にたとえれば蒲柳ほりゅうの質とでもいいましょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ショパンがあの蒲柳ほりゅうの質で、三十九歳まで生き延びたのは、サンドの看護と注意のおかげであったとも言われている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
蒼白い蒲柳ほりゅうの質で、何かと言へば熱を出す少年は、四谷見附内の伯母の家(そこに少年は母と一緒に寄寓きぐうしてゐた)
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
病弱といってもこれといって、持病を持っているのではなく、要するところ腺病質、蒲柳ほりゅうの質であるまでであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蒲柳ほりゅうの公子は生れて以来、かばかりの恥辱を与えられたことをかつて覚えぬ。夜目にこそ見えね色をして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは蒲柳ほりゅうの質だ、病身なのだ、とアッシェンバッハは思った。——おそらく長生きはしないだろう。
蒲柳ほりゅうの質にしてしかも能く人一倍遊びたりと思へば、平生おのづから天命をまつ心ありしが故にや、ことしの秋の大地震にも無辜むこの韓人を殺して見んなぞとの悪念を起さず。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
元来スミスは蒲柳ほりゅうの質であった、それが数年間引き続いて過度の勉強思索にふけったのであるから、はなはだしくその健康を害するに至ったのは、自然のなりゆきのようでもあるが
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ある学者はかくのごとき有様が続いたならば、世は遠からず蒲柳ほりゅうの美人がなくなるだろうというている。思慮、学問、決断において女子が男子のごとくなれば、身体までもあい類似してくる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼の蒲柳ほりゅうの体質が一切いっさいの不摂生を許さなかったからもありましょうが、また一つには彼の性情が、どちらかと云うと唯物的な当時の風潮とは正反対に、人一倍純粋な理想的傾向を帯びていたので
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元来が蒲柳ほりゅうの質であるところへ、腎臓の持病があり、めったに出稽古などに来てくれる人ではないのに、もう初夏の暑い日ざかりに、大阪のみなみの方から阪急電車で出向いて来てくれると云うのは
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「養子即ち秀才か? そういえば蒲柳ほりゅうの質で、一寸秀才タイプだね」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
蒲柳ほりゅうの質である彼は、いつの間にか肺を侵されていたのである。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もっと、はっきりしていることは、武人にして武人らしくないおもざしです。蒲柳ほりゅうのお質というよりも、御病身であったでしょう。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ショパンは姉二人の次に生まれた唯一の男の子として、全家族の鍾愛しょうあいのうちに育ったが、一人っ児らしい蒲柳ほりゅうの質で、子供時分から病気がちであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
絹セルの単衣ひとえ、水色縮緬ちりめんの帯を背後うしろに結んだ、中背の、見るから蒲柳ほりゅうの姿に似ないで、眉もまなじりもきりりとした、その癖口許くちもとの愛くるしいのが、パナマの帽子を無造作に頂いて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御風邪ごふうじゃの由心配致しをりそうろう蒲柳ほりゅう御身体おからだ時節がらこと御摂生ごせっせい第一に希望致し候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
産まれながら蒲柳ほりゅうたちで力業には向き兼ねる。そこでお前を利用してよ、途方もねえ獲物を盗み出したところで、相棒のお前を殺してしまえば濡れ手で粟の掴み取り、一粒だって他へはやらねえ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
井戸掘りにしては男ぶりのよい又八の容貌かおだちや、総じて蒲柳ほりゅうな体つきも、そう気をつけて見られると、彼に不審を抱かせた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ショパンの悲嘆ひたんと憤激は想像に余りある。蒲柳ほりゅうの質に宿した獅子ししの魂が「練習曲ハ短調=作品一〇の一二(革命)」となって作品の上に表れたのは、この祖国愛の慟哭どうこくであったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「ところで俺は蒲柳ほりゅうたちだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一見、蒲柳ほりゅうたちらしく見えるが、信長のほうが、遥かに丈夫である。その精神力をうかがっても分るように。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、みな見恍みとれた。——といっても、蒲柳ほりゅう柔弱にゅうじゃくな型ではなく、四肢は伸びやかに、眉はく、頬は小麦色に、くちびるのごとく、いかにも健康そうな、美丈夫、偉丈夫の風があった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十七歳の右衛門七は、体もまた蒲柳ほりゅうの質であった。男はそれに反して彼の倍もある恰幅かっぷくで、年頃も三十前後かと見える。太やかな朱鞘しゅざやを差し、角ばった顔にこわそうなひげがまばらに生えていて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに比しては、蒲柳ほりゅうな弟宮の宗良むねながは、いかにもいたいたしくみえる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おなじ美丈夫ながら、兄宮は六尺ゆたかな体躯で、叱咤しった山谷さんこく木魂こだまするがいを持っていたが、この弟宮のほうは、蒲柳ほりゅうであった。——歌よみの家の、冷泉家から出たおん母に似たものか、いと優しい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)