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臭氣
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しうき
それで
其の一
町四
方は
晝間も
戸を
締めたといふほど、ひどい
臭氣が、
其の
頃の
腐つた
人間の
心のやうに、
風に
吹かれて
飛び
散つた。
室内と
云はず、
廊下と
云はず、
庭と
云はず、
何とも
云はれぬ
臭氣が
鼻を
衝いて、
呼吸をするさへ
苦しい
程。
彼は
危險い
手もとで
間違つて
落しては
灰にくるまつても
口でふう/\と
吹いて
手でばた/\と
叩くのみで
洗ふこともしなかつた。じり/\と
白く
火箸へ
燒け
附いた
鹽が
長く
火箸に
臭氣を
止めた。
まるで、
今の
世の
中を
見るやうに
上も
下も、すつかり
腐つて
居りますぞ。
臭いもの
身知らずとやら、この
死骸よりは
今の
世の
中全體の
方が
臭氣はひどい。
不汚極る
動物で、
始終鼻を
突くやうな、
胸の
惡くなる
臭氣を
放つてゐる。
但馬守は
先づ
與力どもを
威かし
付けて
置いて、それから
町家の
上に
眼を
配つた。すると
其處には、あらゆる
腐敗が、
鼻持ちもならぬまでにどろ/\と、
膿汁のやうな
臭氣を八
方に
流してゐた。