脊筋せすじ)” の例文
私がのっそりと突立つッたったすそへ、女の脊筋せすじまつわったようになって、右に左に、肩をくねると、居勝手いがってが悪く、白い指がちらちら乱れる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして急にえとした山気さんきのようなものが、ゾッと脊筋せすじに感じる。そのとき人は、その急坂きゅうはんに鼠の姿を見るだろう。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
相川青年はそれを聞くと、脊筋せすじを虫が這う感じで、ゾーッとしないではいられなかった。文句こそありふれた安来節だけれど、それはこの世のものではない。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
俎板まないたの上で首を切られても、胴体どうたいだけはぴくぴく動いている河沙魚かわはぜのような、明瞭はっきりとした、動物的な感覚だけが、千穂子の脊筋せすじをみみずのように動いているのだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そう思って、考えてみたのですが、次の瞬間、私は脊筋せすじにすーっと冷たい物のはしるのを感じました。
歪んだ夢 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかし起きてぜんに向った時、彼にはかすかな寒気が脊筋せすじを上から下へ伝わって行くような感じがあった。その後ではげしいくさみが二つほど出た。傍にいる細君は黙っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お涌はさういふ気持ちで喚く時、脊筋せすじを通る徹底した甘酸あまずっぱい気持ちに襲はれ頸筋くびすじ小慄こぶるひさせた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
妙にかんにさわって、おい、お慶、日は短いのだぞ、などと大人びた、いま思っても脊筋せすじの寒くなるような非道の言葉を投げつけて、それで足りずに一度はお慶をよびつけ
黄金風景 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは丁度初夏はつなつ頃の陽気で、肥ったお島は長い野道を歩いて、脊筋せすじが汗ばんでいた。顔にも汗がにじんで、白粉おしろいげかかったのを、懐中から鏡を取出して、直したりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
数日来見飽みあきるほど見て来た平凡へいぼんな木乃伊である。彼は、そのまま、行過ぎようとして、ふとその木乃伊の顔を見た。途端とたんに、冷熱いずれともつかぬものが、彼の脊筋せすじを走った。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いきなりとびかゝって、娘の上に乗し掛っている奴のふんどしの結び目と領首えりくび取捕とッつかまえてうしろの方へなげると、松の打附ぶッつけられ、脊筋せすじが痛いからくの字なりになって尻餅をき、腰をさすって居りまする。
主水は正坐して脊筋せすじを立てると
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ほか綺麗きれいな部分とは比較にならぬ程よごれていたし、髷に続くうなじの奥には、着物の襟と背中との作る谷底を真上から覗くので、脊筋せすじの窪みまで見えて、そして
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……城の石垣に於て、大蛇おおへび捏合こねおうた、あの臭気におい脊筋せすじから脇へまとうて、飛ぶほどに、けるほどに、段々たまらぬ。よつて、此の大盥おおだらいで、一寸ちょっと行水ぎょうずいをばちや/\つた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
溜息ためいきをついて市電に乗り、自分にとって、この世の中でたった一つの頼みの綱は、あの堀木なのか、と思い知ったら、何か脊筋せすじの寒くなるようなすさまじい気配に襲われました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「だらしがないわ皆三さん。着物の脊筋せすじを、こんなに曲げて着てるつてないわ」
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
……はだおおうたよりふっくりと肉を置いて、脊筋せすじをすんなりと、撫肩なでがたして、白い脇をちちのぞいた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)