背向うしろむき)” の例文
夫人この時は、後毛おくれげのはらはらとかかった、江戸紫の襟に映る、雪のようなうなじ此方こなたに、背向うしろむき火桶ひおけ凭掛よりかかっていたが、かろく振向き
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忍びて様子をうかがいたまわば、すッと障子をあくると共に、銀杏返いちょうがえし背向うしろむきに、あとあし下りにり来りて、諸君の枕辺まくらべに近づくべし。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
与吉はひとりで頷いたが、背向うしろむきになって、ひじを張って、なんの字の印が動く、半被の袖をぐッと引いて、手をって
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
與吉よきちひとりうなづいたが、背向うしろむきになつて、ひぢつて、なんしるしうごく、半被はつぴそでをぐツといて、つて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(五助さん、これでしょう、)と晩方遊女おいらんった図にそっくりだ。はっと思うトタンに背向うしろむきになって仰向けに、そうよ、上口あがりぐちの方にかかった、姿見を見た。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身を起して背向うしろむきになったが、庖丁ほうちょうを取出すでもなく、縁台の彼方あなたの三畳ばかりの住居すまいへ戻って、薄い座蒲団ざぶとんかたわらに、ちらばったように差置いた、煙草たばこの箱と長煙管ながぎせる
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、今度は、おなじ象の鼻で、反対に、背向うしろむきねられたんだね、土耳古人は向うむきになって、どしどし楽屋を出ちまったよ。刎ねられ方は簡単だけれど、今度は昨夜ゆうべより落胆がっかりした。
とき其時そのとき玄々げん/\不可思議奇絶怪絶、あかきものちらりと見えて、背向うしろむきの婦人一人いちにん、我を去る十歩の内に、立ちしは夢か、幻か、我はた現心うつゝごころになりて思はず一歩ひとあし引退ひつさがれる、とたんに此方こなたを振返りし
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふすまも畳も天井も黄昏たそがれの色がこもったのに、座はただ白け返った処へ、一道の火光さっ葭戸よしどを透いて、やがて台附の洋燈ランプをそれへ、小間使の光は、団扇を手にしたまま背向うしろむきになっている才子のかたわら
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しろちゝしてるのはむねところばかり、背向うしろむきのはおび結目許ゆひめばかり、たゝみをついてるのもあつたし、立膝たてひざをしてるのもあつたとおもふのとるのとまたゝくうち、ずらりと居並ゐならんだのが一齊いつせいわたし
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)