耳朶みゝたぶ)” の例文
明色めいしよくの髪の毛には、菫の輪飾が戴かせてある。耳朶みゝたぶにはアウリカルクムの輪が嵌めてある。きらめく宝石の鎖が胸の上に垂れてゐる。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
髯の跡青く、受け口にて、前齒二本け落ちたり。右耳朶みゝたぶに小豆粒ほどの黒子あり。言葉は中國なまり。聲小にして、至つて穩かなり——
耳朶みゝたぶに怪我をしたものだから、縫つて貰はうと思つて来たのだが、余り手間取るからいつそ食つてしまはうと思つて。」
そのにごつたおと彗星はうきぼしやうにぼうと宗助そうすけ耳朶みゝたぶにしばらくひゞいてゐた。つぎにはふたつた。はなはさみしいおとであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
姿すがたをつきました。あゝ、うつくしいしろゆび結立ゆひたてのひんのいゝ圓髷まるまげの、なさけらしい柔順すなほたぼ耳朶みゝたぶかけて、ゆきなすうなじやさしくきよらかに俯向うつむいたのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瞬く間、窓の外が明るくなつたと思ふと、汽車は、とある森の中の小さい驛を通過パツスした。お定は此時、丑之助の右の耳朶みゝたぶの、大きい黒子ほくろを思出したのである。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、晩飯の食堂で室長に私はしかられて、おわん杓子しやくしとを持つたまゝ、耳朶みゝたぶまであかくなつた顔を伏せた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
眼瞼まぶたの裏の紅い処をひっくりかえして白眼を出させたり、耳朶みゝたぶや唇の端を掴んで振って見たり、芝居の子役か雛妓おしゃくの手のようなきゃしゃな青白い指先が狡猾に働いて
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大太鼓は耳朶みゝたぶを引張る様に濁つて、淋しく物哀れに、然し何か透き通つた様に聞えて、継母と姉と自分の三人の家内が、今にも何かに襲はれて消えて終ふのではないかと
「あツ、……」と叫んだ母は、兩手で耳朶みゝたぶに蓋をした。六十六部の多く通る麥秋の頃には、文吾の家の表戸が閉め切つてあつて、六部に留守だと思はせるやうにしてあつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
金メッキの耳輪が、小さい耳朶みゝたぶにゆれてゐる。黒い髪の毛は、えりもとで短く刈り込んでゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
耳朶みゝたぶのちぎれかけた男も、踵をそがれた男も、腰に弾丸のはまった男も、上膊骨を折った男も、それ/″\、憐れみと、懇願の混合した眼ざしを持って弱々しげに這入ったきた。
氷河 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
平次は娘の死骸を兩手で抱き上げるやうに、外から入る光線を、その可愛らしい耳朶みゝたぶの中に射し込ませるのでした。
「正義」の大商人おほあきんどウヰルソン氏なぞ、よく気をけないと、兎のやうな耳朶みゝたぶちぎれる程引張られるかも知れないて。
耳朶みゝたぶにぶんと響き、脳にぐわら/\とわたれば、まなこくらみ、こゝろえ、気もそらになり足ただよひ、魂ふら/\と抜出でて藻脱もぬけとなりし五尺のからの縁側まで逃げたるは、一秒を経ざる瞬間なりき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、旦那が耳朶みゝたぶを引っ張って、こづき廻すと
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女の心の臓が案外健康ぢやうぶだつたので、幾らか物足りない気持で、医者が待合室へ入つて来ると、そこには中馬が引き拗つた耳朶みゝたぶを火鉢の火であぶつてゐた。
玉ちやんには左の耳朶みゝたぶの下に可愛らしい黒子ほくろがありますし、左二の腕に私と一緒にふざけてつた、小さい/\干支えと(蛇)があるんです。これとつゐの——
頬に刺青いれずみか何んかあるが、右の耳朶みゝたぶ凍傷しもやけの跡があつて、左の手の小指が子供の時の怪我で曲つて居ますだ。誰が何んと言つても、伜の文三に間違ひはありましねえ
キツチナアはだしぬけに耳朶みゝたぶを引張られたやうな顔をした。——若い将校め、何といふ不作法な事を言つたものか。こんなのに限つて、一度は女の前でとんぼがへりをする奴さ。
「あの邊のことなら、酒屋のムク犬の顏まで知つて居ますよ、ましてお蝶にお輝と來ちや、何方も負けず劣らず綺麗だから、可愛らしい耳朶みゝたぶの下の赤い黒子ほくろまで心得て居ます」
その心祝ひに呼んだ同僚や朋輩ほうばい、七、八人の取持ちにつれて行つた娘のおせつ、十八になつたばかりの、目出度くも可愛らしいのが、凉み船に飛んで來た矢に、右の耳朶みゝたぶを射られましたが
白い首筋、桃色の耳朶みゝたぶ、美しくも惱ましい歎きの姿です。
前齒が一枚けて、右の耳朶みゝたぶに傷があつたやうだ。