しか)” の例文
好い奉公人を置き当てたと家内の者も喜んでいた。私も喜んでいた。すると四、五日経ったのち、妻は顔をしかめてこんなことを私にささやいた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかめテも左樣の毒藥にて候かと恐れし色をぞしめしたり折節をりふししたより午飯の案内あんないに半兵衞はしばし頼みまする緩々ゆる/\見物せられよと寶澤を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日頃新平民と言へば、直に顔をしかめるやうな手合にすら、蓮太郎ばかりは痛み惜まれたので、殊に其悲惨な最後が深い同情の念を起させた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
すなわち社内へ進入すすみいッて、左手の方の杪枯うらがれた桜の樹の植込みの間へ這入ッて、両手を背後に合わせながら、顔をしかめて其処此処そこここ徘徊うろつき出した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一体誰が来たのだろうと思って飛んで行くと、田舎の伯母さんが来たのだ。伯母さんは年に二度ずつ来て、一週間位泊って帰る。花さんは顔をしかめて
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
青銅のわくめた眼鏡を外套の隠袋かくしから取りだして、眼へあてがおうとしてみた、がいくら眉をしかめ、頬を捻じ上げ、鼻までお向かせて眼鏡を支えようとしてみても
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかめて歩く此時の体相ていさう諸君みなさんにお目にかけずに仕合せサ惡い時にはいけない事が續くもので福嶋から二里ばかりの道は木曾とは思はれぬ只の田甫たんぼ泥濘ぬかるみにて下駄の齒は泥に吸ひつかれて運ぶに重く傘の先は深くはまりて拔くに力がる程ゆゑ痛みはいよ/\強く人々におくれて泣たい苦しみ梅花道人さすがに見捨がたくや立戻りて勢ひを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「ああ厭だ厭だ」と顔をしかめて、「こんな厭な思いをするもみんな彼奴あいつのおかげだ。どれ」と起ち上ッて、「往ッて土性骨どしょうぼね打挫ぶっくじいてやりましょう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
奥から続いて出て来たのは、おせいという酌婦、色白の丸顔で、お葉よりも二三歳ふたつみつ若く見えた。これも幾らか酔っているらしい、苦しそうに顔をしかめて
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あきれたねえ、これには。』と町会議員も顔をしかめて、『もつとも、種々いろ/\な人の口からつたはり伝つた話で、誰が言出したんだかく解らない。しかし保証するとまで言ふ人が有るから確実たしかだ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お政は始終顔をしかめていて口も碌々ろくろく聞かず、文三もその通り。独りお勢而已のみはソワソワしていて更らに沈着おちつかず、端手はしたなくさえずッて他愛たわいもなく笑う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ちっ怪我けがをした。」と、市郎は顔をしかめて、「そこでお前さんに頼みたいことが有るんだが……。僕はの通り、足を痛めているんで到底とても歩けそうもない。 ...
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「熱いの。」と、お葉は微笑ほほえんだ。重太郎は顔をしかめて首肯うなずいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれは困つたやうな顔をしかめて、しばらく默つてゐた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
番人は顔をしかめて少しく低声こごえになり
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)