にえ)” の例文
と入る。たもとすがって、にえの鳥の乱れ姿や、羽掻はがいいためた袖を悩んで、ねぐらのような戸をくぐると、跣足はだしで下りて、小使、カタリと後を
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔の罪科つみとがを並べられた三斎、恐怖のにえとなって、ために、心臓に強烈な衝撃をうけて、もはや、生き直る力もない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ちょうど片目の魚がにえのうちからおそれ敬われたように、後々神の御身につく布である故に、その機の音のするところへは、ただの人の布を織る者は
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
老人「あれはみんなにえですよ。サッサンラップ島のカメレオンには去年売れた野菜をにえにするのですよ。」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このお痛わしいお弟子入りについては、色々とこみ入った事情もございますが、掻撮かいつまんで申せばこれは、父君右兵衛佐殿の調略のにえになられたのでございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
昔美なる白綿羊を多く持った牧夫あり、何か仔細しさいあってその羊一疋を神ににえすべしと誓いながらしかせず、神これをいかって大波を起し牧夫も羊もき込んでしまった。
そのさまは一様でなかったが、その家に悪いしらせがあると、人びとはひどく恐れて、にえを供えてはろうた。神が喜んでうけいれてくれると、その不思議がなくなるのであった。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
久しく我らをいやしみたり、我らにささぐべきはずの定めのにえを忘れたり、う代りとして立って行くいぬ驕奢おごり塒巣ねぐら作れるとり、尻尾なき猿、物言う蛇、露誠実まことなき狐の子、汚穢けがれを知らざるいのこ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もろもろの歓楽におごりたまいしが、絶大の愛を心に持ちたまい、慈悲をあまねく日本国じゅうにれたまい、不幸なる者を救いたまえること数を知らず、今何の報いにて風波のにえとなりたまわん。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
にえにせられて血を流した人達があったとかで
幇間同士が血のしたたるビフテキを捧げて出た、獅子の口へ、身をにえにして奉った、という生命いのちした、奉仕サアビスである。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このお痛はしいお弟子入りについては、色々とこみ入つた事情もございますが、掻撮かいつまんで申せばこれは、父君右兵衛佐殿の調略のにえになられたのでございました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
白鶏をにえして隠財を求むといい、コラン・ド・ブランシーの『遺宝霊像評彙』一巻六四頁には、天主教徒白鶏をクリストフ尊者に捧げて、指端の痛みをいやしもらう。
すっかりにえにささげて、あのいとわしいとうといお方のお側に、あまりに長う辛抱をしすぎました。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
姜はそこでおそれて結納をかえした。薛老人は心配して、にえきよめて祠に往っていのった。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母はもとより天道の大御心おおみこころにはかなわぬ生立おいたち、自分の体をにえにして、そして神仏かみほとけの手で、つまり幽冥ゆうめいの間に蝶吉の身を救ってやろう、いずれ母娘おやこが、揃って泥水稼業というは
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長崎奉行、代官をあやつって、松浦屋を陰謀のにえにした頭人とうにんともいうべき奸商かんしょうではないか!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
明くるを待ちて、相見て口を合わするに、三人符を同じゅうしていささかも異なる事なし。ここにおいて青くなりておおいおそれ、ひとしくにえを備えて、廟にまいって、罪を謝し、哀を乞う。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
於是これにおいてあをくなりておほいおそれ、ひとしくにえそなへて、びやうまゐつて、つみしやし、あいふ。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)