父様とうさま)” の例文
旧字:父樣
「お前が、そういう心掛こころがけで買うのなら、時々は買ってもいい。お父様とうさまは、お好きなほうなのだから。」と、おっかさんは言いました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
父様とうさまがミンチン先生にお願いして下すったの。だって——ねえ、私、おあそびする時、自分でお話をこしらえて、自分に話してきかすからなの。
これからこの娘が父親のことを、「父様とうさま」といっている。いくら大尽の家の親父にしたところが、その子供が「父様」なんていうことはないはずだ。
中里介山の『大菩薩峠』 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
お国さんのお父様とうさまは骨格の逞しい怖い人でお役のため留守がちだつたが、たまに家のときはいちんち二階に閉ぢこもつてなにか書きものをしてゐた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
「安斉先生はつぎの間へさがったが、お父様とうさまは心配になってのぞいてみた。すると大変! 『ご短慮たんりょ、ご短慮』といって、富田さんがおさえている」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
筆「お父様とうさまわたくしは一生懸命に神信心をして上手に成ってお父様のお手助けをいたしうございますから御心配なく、来年の夏迄には屹度きっと一人前に成りますから」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
子供は舌の働きが自由でないから、とかく言いにくい音を言いやすい音にかえたがる。「うつくしい」を「うつくちい」、「お父様とうさま」を「おとうちゃま」などと云う。
特殊部落の言語 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
父様とうさま、私は真実ほんとに父様のなのでしょうか。』とかねて思い定めて置いた通り、単刀直入に問いました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人の前で、母様かあさんと云おうが、父様とうさまと云おうが、道義上あえて差支さしつかえはない、かえって結構なくらいである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると清はすましたものでお兄様あにいさまはお父様とうさまが買ってお上げなさるから構いませんと云う。これは不公平である。おやじは頑固がんこだけれども、そんな依怙贔負えこひいきはせぬ男だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広大なる邸に住んで多くの侍僕を使い、人は一代の碩学せきがくとして称えてくれる。しかし父様とうさまのお心の中の苦悶は、私の物心ついてこの方いまだ一日として消えたこともないのだ。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「いえ、何んにも変ったことはございませんが、私のに落ちないことを、親分さんにお訊ねしたいと思いまして、父様とうさまにも内証で、出入りの若い衆に頼んで、送って貰いました」
『先生にわかりはしませんよ。ねえお嬢様。お父様とうさまおつしやらしないでせう。』
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
四角な顔の軍人は主人と見えて、先に立つて二人を案内した。玄関には台附のランプが点して置いてある。十二三のと八つばかりのと、男の子が二人走つて玄関に出て、お父様とうさまの右左に取り附く。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
父様とうさまに悪いところがあるならおれがいさめて改めさせればいい、ふたりが善人になればこの町はよくなるのだ、南山にとらをうちにゆく必要もなければ長橋にりゅうをほふりにゆく必要もない
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「お父様とうさまだけ。御兄弟は確かございませんでしたね?」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、「お父様とうさま、どうかお願いですから、」
「有難うございました。私は昨晩から悪者の為にこの部屋に監禁されているのでございます。父様とうさまはどうなすったでしょう。どうかすぐH旅館ホテルへ案内して下さい。私はAというもので、父様の看護の為、当地にきているのです。」
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「お父様とうさまからお許しが出たかどうかうかがってみる。それに学監室へは時々話しにくるようにとおっしゃった」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一寸ちょっと重役のうちへ遊びに行っても、銀の煙管じゃとか、紙入じゃとか、風呂敷とか、手拭とか云うものを盗んでたもとへ入れて来るじゃ、そこでお父様とうさまも呆れてしまい
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ゆきは、故郷ふるさとからわたしむかひたものを、……かへちつとしに、貴下あなたせなよりかゝつて、二階にかい部屋へやはいりしなに、——貴下あなたのお父様とうさま御覧ごらんには、……きふ貴下あなたおほきくつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お父様とうさま、お母様かあさま、どうか勘忍かんにんして下さいまし。」
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お父様とうさま、日曜から土曜へは少しご無理じゃございませんでしょうか?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)