烱々けいけい)” の例文
併し藤房をして中興政治の禍根を指摘させて居る所など、『太平記』著者の史眼は烱々けいけいとして、其の論旨は肯綮こうけいに当って居ると思う。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その者はたしかに興奮のために、夢中になっているに相違なかった。その目は烱々けいけいと輝き、その顔は、緊張のために引きつけていた。
待つこと一分ならざるに眼光烱々けいけいたる老人あり。たつを排して入り来り、英語にて「よく来た、まあ坐れ」と言う。勿論辜鴻銘先生なり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なぞを解くかぎも、またそこからというように、名人は烱々けいけいとまなこを光らしてうずくまると、おもむろにその身体検査を始めました。
彼れ白痘はくとう満顔、広額尖頤せんい双眉そうび上に釣り、両頬下にぐ、鼻梁びりょう隆起、口角こうかく緊束きんそく、細目深瞳しんとう、ただ眼晴烱々けいけい火把たいまつの如きを見るのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
見るとなるほど、なか凹高くぼだかな頭のかたちからして、凡僧とはちがっているし、ひとみが、眉毛の奥に、ふかく隠れこんで、烱々けいけいと、射るものを、うける。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年齢は四十歳を、迫らぬほどの眉根濃く、眼光の烱々けいけいたるものあるにも、それとは著き風采の、温雅にもまた気高し。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
眼光烱々けいけいと言うと、いかにも古風な形容だが、それがまたぴたりと当てはまる、古武士のような慷堂である。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
烱々けいけいとして強くすさまじく、おまけに一種底の知れない深い魅力をたたえているので、グッと一と息に睨められると、折々ぞっとするようなことがあったからです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
幼にして精敏、双眸そうぼう烱々けいけいとして、日に書を読むこと寸にち、文をすに雄邁醇深ゆうまいじゅんしんなりしかば、郷人呼んで小韓子しょうかんしとなせりという。其の聰慧そうけいなりしこと知る可し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちょっと見ても、その烱々けいけいとして大きくかがやく眼は怖ろしいが、その奥底にはいうべからざる愛情がこもり、近づくものをみなきつけねばやまぬおもむきがあったという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その瞬間、闇の彼方にレヴェズの烱々けいけいたる眼光が現われ、彼があえらす、野獣のような息吹が聴えてきた——と思われたのは、彼等の彩塵が描き出した幻だったのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ナポレオンの烱々けいけいとした眼は緞帳の奥から輝いていた。すると、最早や彼女の足は慄えたまま動けなかった。ナポレオンは寝衣の襟を拡げたままルイザの方へ進んでいった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
すると彼女の眼が烱々けいけいとかがやいた。欲情的に声をふるわせてミサコが云う。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
その頃のブラームスは胸幅の広い、髪の毛の美しい、青い烱々けいけいたる眼と、厳然たる態度を持った偉丈夫で、すべての人に畏敬いけいされていたということは、残る写真を見てもうなずけることである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
清原 (異様なよろこびに既に眼は烱々けいけいと輝き始めている。熱情的な独白)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
名人の眼光がらんらん烱々けいけいとして輝いたとみえましたが、あの秀麗きわまりない面に、莞爾かんじとした微笑がのると、ずばりいったもので——
たった今まで酒席にはしゃいでいた諸将も、一瞬に、姿勢を正し、烱々けいけいと眸をそろえながら、大将曹操の姿を迎えた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ホームズは大きな古い型の椅子に腰かけて、古色蒼然とした顔から烱々けいけいとした眼光を輝かしていた。
粗野な窮惜大きゅうそだいとして終始し、——くしけずらぬ獅子の髪、烱々けいけいたるわしの眼、伸び放題の不精髯ぶしょうひげ衣嚢かくし一杯に物を詰めて、裏返しになった上着、底のいたんだくつ——そういった姿でウィーンの内外を横行し
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
例の烱々けいけいとした眼光を鋭く放って、いかなる秘密もなぞもおれにかかってはかなわないぞというように、じっとその身辺を見調べました。
烱々けいけいたる眸は天の一角を射ていた。魯粛は、その眸を、じっと見て、狂人ではないことを信念した。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しからばとばかりに河岸かしを変えると、矢を射込まれたいぶかしき御用駕籠検分に、烱々けいけいとしてあの鋭い目を光らしながら取って返しました。
誰にも気づくほど、近ごろは、痩せが見えているが、ただ、あの茶いろをしたひとみだけが、烱々けいけいとして、相変わらず光っている。そのうえに、まゆを植えたような白雪の眉がある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひざまずいたまま烱々けいけいとまなこを光らして名人は、ややしばし老直訴人の姿をじいっとうち見守っていたかと見えたが、さすがは慧眼けいがん無双
「どう読んだな、貴公は」と、彼の問いは深刻で、その眼は、烱々けいけいとして鋭い。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ややしばし烱々けいけいと鋭く見守っていましたが、べつにうろたえた色も見せず、目の動きもいたって尋常、懸念すべき点はなさそうでしたから
別段烱々けいけいたる眼光を持っているわけでもないし、骨格もすぐれて頑健ともみえない。ただことなっているのは、何となく、接していると、春風のような温雅な和気につつまれる。髪はまだ白くない。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目の動き、顔いろのそよぎ、心のしんに何ぞ狼狽ろうばいしているところはないかと、その鋭く烱々けいけいと光るまなざしでじいっと両名を見すくめました。
ぬりの陣笠に、金箔摺はくずりの紋が、朝露に濡れていた。大きな口、濃い眉、そして滅多にない長づらの人物である。年ごろは三十がらみとしか見えないが、烱々けいけいと光る眼が、むしろ底気味わるいほどだった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手もなく引っ立てられて、烱々けいけいとにらみすえられましたものでしたから、宗助も今はどろを吐くよりしかたがなくなりました。
武蔵の烱々けいけいと光っている異様な眼ざしだの、油気のない殺伐な髪の毛だの——体のどこを触れても斬れそうな様子をしているこの青年に、彼はなにかしら、愛せるものを見出しているらしいのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烱々けいけいと目を光らして、手の跡から手の跡を追いながら、その位置をよく見しらべると、湯気抜きの押し窓のちょうど真下になっているのでした。
白雪の眉、烱々けいけいたる眸、なお壮者をしのぐものがあった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取り出して、ぬかを払いながら表紙の文字を見ながめるや同時に、名人の目は烱々けいけいとしてさえ渡りました。いかにも奇怪!
はだかのままでしばらく考えていましたが、突如! 真に突如、右門の眼はふたた烱々けいけいと輝きを帯びてまいりました。また、輝きだすのも道理です。
七郎兵衛がしぶしぶと手を鳴らしながら陽吉夫婦を呼び招きましたので、右門は烱々けいけいとまなこを光らしながら、両名のはいりくるのを待ちうけました。
その両眼は絶えず烱々けいけいとして、川の右岸、すなわち京橋日本橋とは反対側の深川本所側ばかりにそそがれました。
断じて見のがし聞きのがしたことのない右門の眼が烱々けいけいとして異常な輝きを増すと、鋭いことばがすかさずに、あいきょう者のところへ飛んでまいりました。
鋭く烱々けいけいとまなこを光らしながら、何か手がかりになるべき品はないかと、しきりにあちらこちら見調べていましたが、そのときはしなくも目に映ったのは
明々白々それなるとくりの中に仕掛けられてあることが一目瞭然りょうぜんでしたから、事件の急転直下と新規ななぞの突発に、名人の目の烱々けいけいとさえまさったのは当然
爛々らんらん烱々けいけいと目を光らしながら、今、梅丸竹丸両名が竹棒の上にのぼるまえ、そこの板の上に残しておいた石灰の粉末のたび跡の大きさを、じいっと見調べました。
だから、なんじょうその慧眼けいがんの光らないでいらるべき、烱々けいけいとしてまなこより火を発しさせると、突き刺すごとくに鋭い質問が夫人のところに飛んでいきました。
名人の眼光は、しだいに烱々けいけいと輝きを増しました。こういう頭脳の推断を必要とするネタ調べになると、むっつり流がんのさえは天下独歩、まね手もない、比類もない。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
烱々けいけいと眼を鋭く光らしていたものは、余人ならぬわれらの大立て者むっつり右門でありました。
烱々けいけいとまなこを光らして、ひとり、ふたり、三人とお山同心たちの手に押えられていくしごき掏摸すりの姿と数を見しらべていましたが、そのときはしなくも目に映ったのは
ただちに烱々けいけいとまなこを光らすと、まをおかないで質問が黙山のところに飛んでいきました。
烱々けいけいとまなこを光らして、腰から胸へ、胸から首筋へ、そのどろの足跡と、あの疑問の槍傷やりきずでもない、突き傷でもない、刀傷でもない不思議なえぐり傷とを、見比べ見ながめ
いうまも烱々けいけいと目を光らしながら、しきりに何か捜しさがし、土手ぎわを上へ上へとなお歩を運ばせていたようでしたが、と——、果然! さえざえとした鋭い声があがりました。
帰ると見せて立ち去ったお蘭の家の表のけはいに烱々けいけいと鋭いまなこを配り放ちました。