洒落しゃらく)” の例文
談笑洒落しゃらく・進退自由にして縦横はばかる所なきが如くなれども、その間に一点の汚痕おこんとどめず、余裕綽々然しゃくしゃくぜんとして人の情を痛ましむることなし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、心から捌けて洒落しゃらくであったかというと実は余り洒落でなかった。些細ささいな事を執念しゅうねく気に掛けて何時いつまでも根に葉に持つ神経質であった。
イソップにもないような滑稽こっけい趣味がある。無邪気にもみえる。洒落しゃらくでもある。そうしてすべての下に、三四郎の心を動かすあるものがある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「トいうが畢竟つまるとこ、これが奥だからのこつサ。私共がこの位の時分にゃア、チョイとお洒落しゃらくをしてサ、小色こいろの一ツも掙了かせいだもんだけれども……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
されどこの人は一景色ひとけしきことなり、よろずに学問のにほひある、洒落しゃらくのけはひなき人なれども青年の学生なればいとよしかし
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
老人としては、叔父の長閑斎光廉ちょうかんさいみつかどがいる。洒落しゃらくな老人で、ことし六十七になるが、やまいも知らず、冗談ばかりいって、いまも乙寿丸をそばに置いてからかっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シナ人かチベット人の様に以前とは丸っきり変って居るといって大いに驚いたです。それほど私は変って居ったものと見える。大宮さんは天台宗の方でなかなか洒落しゃらくな人です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
若い時に散々遊んだ人だけあって何処か洒落しゃらくな、からっとしたところのあるのが、もうその人とも親子の縁が切れるかと思えばさすがになつかしく、少し皮肉な云い方をすれば
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と三吉は言ってみたが、かつて橋本の家の土蔵の二階でふるい日記を読んだことのある彼には、この洒落しゃらくと放縦とで無理に彩色いろどりしてみせたような達雄の家出を想像し得るように思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし一面洒落しゃらくで風流、蜀山人だの宿屋飯盛だの、京伝などという文人と交際つきあったり、風流志道軒と話を交えたり、文魚だの焼翁だのというような、蔵前の大通と往来ゆききするかと思うと
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
村正といえば、相当の凄味すごみのある名ではあるが、この通客はあんまり凄味のない村正で、諸国浪人や、新撰組あたりへ出入りのとも全く肌合いが違い、まずていのいいお洒落しゃらくに過ぎない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洒落しゃらくとしてこう仰有おっしゃいます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いよいよ催促を受けたと電報を見ながら苦笑しているので、いいや、急ぎ帰りつつありとかけておくさと、ひとの事だからはなはだ洒落しゃらく助言じょごんをした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この浮世三分五厘と脂下って世間を茶にする江戸作者の洒落しゃらくな風は江戸の文化に親しむものの大部分が浸染していたので、あながち硯友社のみに限らなかった。
その表面のみにても、これを日本の事態に比して大いに異なる所あるを発明し、大いに悟りて自ら新たにし、儒流洒落しゃらくの不品行を脱却して紳士のせいに帰すべきはずなるに
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飛脚とはいえ、ただ通信機関の役目を果すだけの使ではなく、よく情理をみ分けて話のできる相手だと思いましたものですから、不破の関守氏も洒落しゃらくにことを割って話しかけたようです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、そのうちに、さほどでもない光圀みつくにの、ここへ来ても百姓然たる洒落しゃらくな風にようやく親しみ出すと、初めて君臣眉をひらいて、やがて、ぜんつくつくした饗応をもって、光圀を歓待しようとした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代り筆がちっとも滞っていない。ほとんど一気呵成いっきかせいに仕上げた趣がある。絵の具の下に鉛筆の輪郭が明らかに透いて見えるのでも、洒落しゃらくな画風がわかる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
決して等閑なおざりに書きなぐったのではないが、『其面影』のような細かい斧鑿ふさくの跡が見えないで、自由に伸び伸びした作者の洒落しゃらくな江戸ッ子風の半面が能く現れておる。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
支那の流儀にして内行の正邪は深くとがめざるのみならず、文化文政の頃に至りては治世の極度、儒もまた浮文ふぶんに流れて洒落しゃらく放胆を事とし、殊に三都の如きはその最も甚だしきものにして
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
田山白雲も筆をふるいながら洒落しゃらくに答えますと
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洒落しゃらくでありながら神経質に生れついた彼の気合きあいをよく呑み込んで、その両面に行き渡った自分の行動を、寸分たがわず叔父の思い通りに楽々と運んで行く彼女には
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
漣は根が洒落しゃらくである上に寛闊かんかつに育ち、スッキリとさばけた中に何処どことなく気品があった。殊に応酬に巧みで機智に富み、誰とでも隔てなく交際し誰にでもしたしまれた。
あまり洒落しゃらくだから、余は少しくせんを越された気味で、段上に立って、坊主を見送ると、坊主は、かの鉢の開いた頭を、振り立て振り立て、ついに姿を杉の木の間に隠した。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もう小野は帰ったよ、藤尾さん」と宗近君は洒落しゃらくに女の肩をたたく。藤尾の胸は紅茶で焼ける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで少々得意になったので外国へ行っても金が少なくっても一箪いったんの食一瓢いっぴょうの飲然と呑気のんき洒落しゃらくにまた沈着に暮されると自負しつつあったのだ。自惚うぬぼれ自惚うぬぼれ! こんな事では道を去る事三千里。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余はその時に心からうれしく感じた。世の中にこんな洒落しゃらくな人があって、こんな洒落に、人を取り扱ってくれたかと思うと、何となく気分が晴々せいせいした。ぜんを心得ていたからと云う訳ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)