毛唐けとう)” の例文
「向うは向う。こっちはこっちだ。なにも真似をするこたあねえ。第一おらあ毛唐けとうのものはきれえだ。おれの仕事は日本流で行くんだ」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、毛唐けとうは毛唐に違いない。あんな奴が、どうして一人だけこんなところへ流れ込んだのだろうという疑問は、誰の胸にも浮ぶ。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時分までは何でもカンでも舶来はくれえ舶来はくれえってんで紅茶でも何でもメード・イン・毛唐けとうでねえと幅が利かねえのがしゃくだってんで……。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ハルビンで毛唐けとうの女の裸踊りを見てきた。すっ裸になって踊るんだ。あすこの毛がもやもやっと金色に光ってやがる。すごいね」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「おれだってどなりたくはないさ、だが……ああ女がでた、あれはなんとかいう女なんだね、どうだ、毛唐けとうつらはみんなさるに似ているね」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
湖面暗くして波浪上らず、雨脚うきゃく矢のごとく湖上を打つ。毛唐けとうの乗ったボートは橋に引掛かり、対山のみどりは雨雲に包まれて、更に一鳥の飛ぶを見ず。
さはいえ阿Qは承知せず、一途に彼を「偽毛唐けとう」「外国人の犬」と思い込み、彼を見るたんびにはらの中でののしにくんだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
おや、何だか見覚えのある奴が通るぞ。なあんだ、テニス・コオトの番人か。やあ、こんどは自動車が通る。毛唐けとうの奴らがすしづめになっていやあがる。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「虎もさいもばかやつらだし、あの毛唐けとうもばかやつらだ、こんなに肝煎きもいったこたありゃしねえ、ええつまんねえ、出べえや、なあ、出ちまうべえよ先生」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そもそも、日本人だと思うのが間違いなんだ。毛唐けとうの役者でね。何でも半道はんどうだと云うんだから、笑わせる。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはもう、なんやこう、けったいな感じがしてどむならんとかいったら、これは正確な日本語を習った毛唐けとうには、全く見当がつかないだろう、日本人にも通じ難いかも知れない。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「日本ラインという名称は感心しないね、卑下と追従ついしょうと生ハイカラはしてもらいたいな。毛唐けとうがライン川をドイツの木曾川とも蘇川そせん峡とも呼ばないかぎりはね。おはずかしいじゃないか」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「知らねえ。フランスでも何でも、とにかくこれは返すよ。毛唐けとうはつまらねえ。日本の女優の写真とかえてくれねえか。あい願わくば、そうしてもらいたい。こいつは、向うの小柴こしばのひばりさんにでもあげるんだね。」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……コンナ機会やまは二度とねえんだぞ……しかも相手は毛唐けとうの娘じゃないか……構う事はねえ……やっつけろ……やっつけろ……。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それを毛唐けとうという軽蔑語で一掃してしまうことの無知を今更のようにさとり、異人の気風を知るには、まず異人の国々を知り
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とらさいもばかやつらだし、あの毛唐けとうもばかやつらだ、こんなに肝煎きもいったこたありゃしねえ、ええつまんねえ、出べえや、なあ、出ちまうべえよ先生」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてその内側には、そのホテルの主人らしい、すこし頭の禿げかかった、私たちよりも背の低いくらいな毛唐けとうが、ノッブを握ったまま突っ立っていた。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「おれは日本人だから日本の文字のしるしを書くんだ、毛唐けとうのまねなんか死んでもしやしないよ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それから、明治の始めには、ある毛唐けとうがあの亀を売ってくれといって来たという話も屡次しばしばしていた。その時あの亀の目玉にはダイヤモンドがちりばめてあるのだという風評が立った。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
だから芭蕉の句なぞが、毛唐けとうにわかってたまるものか。童謡だってほんとうは境涯のものだよ。極めて単純化された。むしろ禅でなければなるまいと思うね。実相はあくまで深くての上のことだよ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そこまで御調べが届いていちゃしらを切っても間に合いませぬ。私の運の尽きで御座いましょう。女毛唐けとうを殺したのは私に相違御座いませぬ。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御馳走しろ、どのみち、毛唐けとうの食うものだから、人間並みのものを食わせろとは言わねえ、悪食あくじきを持って来て、うんと食わせろ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『爺やったらあんな田舎へつれて行くんですもの。みんな私のことを毛唐けとうだとおもって珍らしがって見んの。私は構わないけれど、ママがお気の毒で見ていられはしなかったわ。……』
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
毛唐けとうのけだものめ、ひっこめ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
重宝ちょうほうなもんだて。どうしてまた毛唐けとうは、こんなことにかけては、こうも器用なんだろう。これを使っちゃ、燧石ひうちいしなんぞはお荷物でたまらねえ」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここいらで一番、身代しんだいを作ってくれようかな……ついで毛唐けとうきもたまをデングリ返してやるか……という気になって、ニッコリと一つ笑って見せたもんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「俺のは苦しい、同じことなら、腹を切るんだった、こんなに……毛唐けとうの薬がこんなに利くとは思わなかった、苦しい!」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
毛唐けとう破廉恥脳バレンチノという女たらしの映画俳優が居たがソイツによくている。頭をテカテカに分けて白い診察服を着込んでいる恰好はモウ立派な博士様だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
毛唐けとうの奴は、裸女を平気で描いて表へ出しやがる、描かせる奴も描かせる奴だが、描く奴も描く奴だ、こん畜生!」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……ところが、その信子夫人って言うのが実はラシャメン専門の女なんで、その毛唐けとうをどこかで殺してめぼしいものをっ払って高飛びしようとしたんです。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの毛唐けとうめ、存外、兇暴性と、泥棒根性とを持っていることをみんなが言う。あんなのは結局度し難い奴で、最後には大迷惑を与える奴に相違ない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ウン……あんな女だっていうぜ。毛唐けとうの船長なんか、よくそんな女をボーイに仕立てて飼ってるって話だぜ。寝台ねだいの下の箱に入れとくんだそうだ。自分の喰物くいものけてね」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
横の方へ読んで行く毛唐けとうのやつの方が、これから流行はやりそうでございますぜ、今、鉄砲にしてみたところが、どうもあっちのやつの方が素敵でございますからね。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
毛唐けとうの重役の随伴おともをしてブライトスター石油社オイルの超速自働艇モーターていに乗ると羽田沖で筋斗とんぼ返りを打たせるといった調子で、どこへ行っても泣きの涙の三りんぼう扱いにされているうちに
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あれこそ毛唐けとうが毒を仕込んで、日本人を殺そうとのたくらみで投げ込んだものだから、拾ってはならない、無断であの空罎を拾った者は、召捕りの上、重き罪に行うべしとあって
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僕は聞いた事もありません。そのホテルでラルサンという毛唐けとうと一緒に食事はしましたがね。まだいるはずですから聞いて御覧になればわかりますが、かなりの神経衰弱に中耳炎を
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「このごろ大阪の相撲どもが、毛唐けとうの足払いと名づけてこさえよる、それを一本貰うて来た」
アイINAイナって聞くと毛唐けとうの高級船員なんかふるえ上るんだそうです。乗ったら最後どんな船でも沈めるってんでね。……だから今度はこのアラスカ丸があぶねえってんで、大変な評判ですがね。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なめたつもりで総なめにめられるなよ、毛唐けとうの方が役者が上だ、毛唐とはいえ、あいつらは海山を越えて、嫌われ抜いているこの国へやって来て仕事をしようという奴等だ
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのトヨ子……つまりお前の叔母さんだね……それが生み残したのがこの友丸伊奈子ともまるいなこという娘で、早くから母に別れていろいろと苦労をしたあげく、長崎の毛唐けとうの病院の看護婦をしていたんだが
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
このマドロスのような下等な毛唐けとうめに、たとえ何であろうともそそのかされて、共に道行なんということは、日本人としては、聞くだに腹の立つことのようであり、兵部の娘としても
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日露戦争以後に吾輩がドンナ科学的の発明を日本の軍部に提供して、ドンナ新鋭の武器を内々で取揃えさしているか判明わからないから……成る程のう……それは事実だ。毛唐けとうの奴等もよく知っとるのう。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしまた、いかに毛唐けとうだって、単に薪水を求めに来たらしいのを、無暗にぶっ払うも考えものだ。尋常に交渉に来たら、尋常に挨拶するのが人間同士の作法だろうじゃないか。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「殿様は造船所の方へ行っちまったんです、そのあとへ村の人が大勢入って来て、盗人ぬすっとを殺せ、毛唐けとう狒々ひひをやっつけろなんて、大勢でマドロスさんをかついで行ってしまいましたよ」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たしかに毛唐けとうと日本人とは頭が違う、なにも我々だって卑下するには及ばないけれども、それにしても、今の日本人はあちらの人を知らな過ぎる、これではいけない、それではならない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり、この殿様のなさることが、わからないんですね。どうも、あれは、毛唐けとうの廻し者で、毛唐が黒船で日本を攻めて来る時に、こっちから裏切りをするために、ああして、軍艦や大砲を
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多少の諒解りょうかいも、同情も、出たかも知れないが、何をいうにもチイチイパアで、ただ締りなく泣き叫ぶのを、田山白雲が、この毛唐けとう! ふざけやがって、という気になって、少しの容赦もなく
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あれは和蘭オランダでフレガットと呼ぶ種類の軍艦だ、噸数トンすうは三千噸、馬力は四百馬力というところだろう、毛唐けとうはあれ以上の軍艦を何百も持っている、日本にはあれだけの船を見ることも珍しいのだ
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それは聞いた、横浜の毛唐けとうを打ちはら先鋒せんぽうとやら」
「うむ……毛唐けとうめは、なかなか大仕事をやりやがる」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)