枕屏風まくらびょうぶ)” の例文
老人は北枕に寝かされ、逆さにした枕屏風まくらびょうぶと、貧しいしきみの壺と、細い線香の煙にまもられていた。……お留伊は顔の布をとってみた。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おれは、いつでも出かけられるばかりにして、お前の帰りを待っていたところさ。お前の留守に、おっかさんの枕屏風まくらびょうぶもできた。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜は光琳こうりん風の枕屏風まくらびょうぶのかげでねむり寒いときは朝めをさますと座敷のなかへ油団ゆとんをしいてゆみずを幾度にもはこばせて半挿はんぞうたらいで顔をあらう。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冬となりてここにまた何よりも嬉しき心地せらるるは桐の火桶ひおけ置炬燵おきごたつ枕屏風まくらびょうぶなぞ春より冬にかけて久しく見ざりし家具に再び遇ふ事なり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だが、薄暗い六畳の一間をのぞくと、枕屏風まくらびょうぶと、鼠不入ねずみいらずのほか、何もない古畳の真ん中に、一人の図う体の大きな男が、仰向けに寝転ねころがっている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしてはね起きて、手さぐりでひうちを取って行燈あんどんをつけ、例の枕屏風まくらびょうぶの中をのぞいて見ると、そこに人がおりません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すなわ煙草たばこ盆、枕屏風まくらびょうぶ船底枕ふなぞこまくら夜着よぎ赤い友染ゆうぜん、などといったものが現われて来るのだ、そして裸の女が立っていれば如何にも多少気がとがめる事になる
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そこにひろげられた枕屏風まくらびょうぶの蔭に、空っぽの飯櫃めしびつがころがって、無残に喰い荒された漬物の鉢と、土瓶どびんと、はしとが、飯粒めしつぶにまみれたまま散らばっている。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
有明の絹行灯きぬあんどんは、少しなまめかしく枕屏風まくらびょうぶの影を青畳に落して、馴れない平次には結構過ぎて寝心地が悪いくらい。
……これが、燃立つようなお定まりの緋縮緬ひぢりめん緋鹿子ひがのこというんだと引立つんですけれどもね、半襟の引きはぎなんぞ短冊形に、枕屏風まくらびょうぶの張交ぜじゃあお座がさめるわね。
あの色紙は、茶屋の枕屏風まくらびょうぶに張ってあったものですが、私はもてない腹いせに、ひっぱがして家へ持って帰ったのです。雪舟せっしゅうではないかと思っているのですが、あるいは贋物にせものかも知れません。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
どこで借りて来たのか、小綺麗な枕屏風まくらびょうぶが北に立てまわされて、そこには徳次郎の死骸が横たえてあった。半七はかたの通りに線香をささげ、香奠を供えて、それから死骸の枕もとへ這いよった。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この「うき世を立つる」というのは遊蕩ゆうとう生活のことで、京ではそれをすら飯の種にしていると、太鼓持たいこもちか何かのことを言った句であるが、それをこの絵本には眼鏡めがねの老人が御産おさん枕屏風まくらびょうぶの外で
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
じょうに三帖の狭い住居で、どこもかしこもとりちらしたなかに、枕屏風まくらびょうぶを立てて和助が寝かされていた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
兵馬はそれに答えないで、自分の手にある小提灯をつきつけて見ると、女が一人、枕屏風まくらびょうぶの蔭にふとんから起きかかっている。そのほかには誰もいないようです。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
枕屏風まくらびょうぶの蔭には長患いの女房お松が、形ばかりの夜の物を着て青白い顔をのぞかせているのです。
引窓を開けたばかりわざと勝手の戸も開けず、門口かどぐちも閉めたままで、なべをかけた七輪の下をあおぎながら、大入だの、こよみだの、姉さんだのを張交ぜにした二枚折の枕屏風まくらびょうぶの中を横から振向いてのぞき込み
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちらッと枕屏風まくらびょうぶが見えただけでしたけど。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はは刀自とじ枕屏風まくらびょうぶ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
座敷のまん中に夜具が延べられ、頭のほうを枕屏風まくらびょうぶで囲ってある。死躰は香屋の清一で、掛け夜具がまくってあり、はだかった胸の、左の乳の下に、平打の銀の釵が突き刺さっていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
帰り来ると、がっかりして、囲炉裏いろりの傍に座を構えながら、枕屏風まくらびょうぶを横目に睨んで
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこは妻の寝間らしい、ふすまは彩色の花鳥の絵で、絹張りのまる行燈に灯がともっていた。広さは六帖、夜具を隠すように枕屏風まくらびょうぶが立ててあり、香のかおりがせるほど強く匂っていた。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
枕屏風まくらびょうぶの絵に欲しや
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふちの欠けた火桶ひおけに、古ぼけた茶棚ちゃだな枕屏風まくらびょうぶのほかはこれといって道具らしい物もみあたらないが、夜具や風呂敷包などきちんと隅に片付いているし、がまで編んだ敷畳もきれいに掃除がしてあり
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
枕屏風まくらびょうぶにかたよけて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)