おく)” の例文
今に至って小田原へ参向するとも時はおくれ居り、遅々緩怠の罪は免るるところはござらぬ、たとえ厳しくとがめられずとも所領を召上げられ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其の為めに女房をも貰ひおくれてしまつて今では毎日工場へ出て働くよりほかに仕方のない男だつた。別に楽しみもなかつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
都近いこのへんの村では、陽暦陰暦を折衷せっちゅうして一月おくれで年中行事をやる。陽暦正月は村役場の正月、小学校の正月である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ミハイル、アウエリヤヌヰチは此頃このごろでは始終しゞゆうかれ留守るすばかく。ダリユシカは旦那だんな近頃ちかごろ定刻ていこく麥酒ビールまず、中食迄ちゆうじきまでおくれることが度々たび/\なので困却こまつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今年はもう二十七でしかも相続人なのだから、村の風習からすればたしかにおくれているのである。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
わたししたきました、なか/\批評ひゝやうどころではない、敬服けいふくしてしまつたのです、そこで考へた、かれが二ねんおくれて予備門よびもんに入つて来たのは、意味いみ無くして遅々ぐづ/\してたのではない
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今はいかばかりもろくなりしよ、彼はさきの決心のただ一時の出来ごころなりしを悟り、膝を交えて離別を語るのいたずらなりしを思い当りて悔ゆれども、事すでにおくれたれば
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
自分は所謂いわゆる「近代的な」感じの人より「古典的な」感じの人を求めていたために今日まで結婚がおくれたのであるが、あなたのような方に来て戴ければ勿体もったいないと思っている、と云って
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時間がおくれて、浦幌うらほろで太平洋の波の音を聞いた時は、最早車室の電燈がついた。此處から線路は直角をなして北上し、一路斷續海の音を聞きつゝ、九時近くくたびれ切つて釧路に着いた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
初産ういざんおくれますゆえのう」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチはこのごろでは始終しじゅうかれ留守るすにばかりく。ダリュシカは旦那だんな近頃ちかごろ定刻ていこく麦酒ビールまず、中食ちゅうじきまでもおくれることが度々たびたびなので困却こまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
氏はまた蒲公英たんぽぽ少しと、ふきおくとを採ってくれた。双方そうほう共に苦いが、蕗の芽はことに苦い。しかしいずれもごく少許しょうきょを味噌と共に味わえば、酒客好しゅかくごのみのものであった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
時間がおくれて、浦幌うらほろで太平洋の波の音を聞いた時は、最早車室しゃしつの電燈がついた。此処から線路は直角をなして北上し、一路断続だんぞく海の音を聞きつゝ、九時近くくたびれ切って釧路に着いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
長谷の御寺の観世音菩薩の御前に今宵は心ゆくほど法施ほふせをも奉らんと立出でたるが、夜〻に霜は募りて樹〻に紅は増す神無月かんなづきの空のやゝ寒く、夕日力無くうすつきて、おくれし百舌の声のみ残る
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)