明々あかあか)” の例文
眼の早いガラッ八が指さしたのは、朝陽を明々あかあかと受けて、昨夜から干し忘れたらしい半纏はんてんが一枚、裏の物干竿に引っかけてあったのです。
ああいう敏捷びんしょうな女だから、かえってこっちの裏をかいて、明々あかあか町家ちょうかの灯が往来を照らしている中を、洒然しゃぜんとあるいているかも知れない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藍碧の海をへだてて長く突出つきだした緑色の岬の端には、眼の醒めるような一群の白堊館が、折からの日差しに明々あかあかと映えあがる。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ぼかしてしまった。燃え盛ると大の字が明々あかあかと中空に浮いているようで頗る壮観だぜと、先刻さっきは頻りに提燈を持っていたのに。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
狭苦しい置屋の店も縁起棚えんぎだなに燈明の光が明々あかあかと照りえて、お勝手で煮る香ばしいおせちのにおいが入口の方まで臭うている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
小夜子はいつものことで、薄暗い中の間で明々あかあかと燈明のとぼっている仏壇の下にぴったりと坐って、数珠じゅずみながら一心にお経をあげていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからもう一つの斑点が、特別な強度をもって、書架の上に飾ってあった一個の骸骨のあたりを、明々あかあかと染めていた。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その中に、小さな仮小屋の様な煙草店たばこみせがあって、まだガラス戸の中にあかり明々あかあかとついていたので、そこで尋ねて見ると
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
街路みちは八分通りかげつて、高声に笑ひ交してゆく二人の、肩から横顔を明々あかあかと照す傾いた日もモウ左程暑くない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ジルベールが真先に立って、手捜てさぐりで玄関の鍵穴に合鍵を挿し込んで難なくドアを開け三人が吸い込まれる様に室内へ入った。客間には瓦斯が明々あかあかともっていた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
若しや? と思うと矢も盾も堪らず、ドア押開おしひらいて中へ入った。部屋の中には電灯が明々あかあかと点いていた。そして老子爵は、安楽椅子と一緒に床の上へ倒れている。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてどっちを見ても、無暗に頑丈な高塀がつづき、夜空に聳え立つ工場の窓には明々あかあかと灯がうつり、それを距てた内側で夜業に熱中している職工たちの気配が感ぜられた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云う、ひげ口許くちもと明々あかあかとして、洋燈ランプかざす。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実平が、時政を訪れ、時政が常胤を起し、中軍の篝はにわか明々あかあかと火の音をはぜ、頼朝の座右には、すでに諸将のすがたが詰め合っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お品は背後に続く男の乱れた跫音あしおとと、目の前の地上に明々あかあかと照らし出された二人の影法師に僅かな安堵を覚えながらそれでも夢中で駈けつづけた。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
玄関脇の客間風な一室に、いつの間にか明々あかあかと電燈が点ぜられ、その光が廊下まで流れ出していた。その中から甲高かんだかい女の声が、漏れ聞えていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時はもうすっかり暮れて、祭壇上の十六のだけが、明々あかあかと神秘の光を投げかけております。
ちょうど、能狂言の終りと共に、あなたこなたは、明々あかあかと灯に染まり、招かれた客たちは、三の丸、二の丸へとおもいおもいに散って行った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るも見すぼらしい人夫すがたの強右衛門は、その中にひきすえられ、まきを加えて、さらにほのおを新たにしたかがりの火に明々あかあかとその横顔を照らされていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、城内は相かわらずで、深更まで狭間はざま明々あかあか燈火ともしびが望まれ、どうかすると濠水ほりみずに、悠長な能管のうかんの音や小鼓こつづみの鳴りひびいていたりすることもありますが」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて戦端が開かれたら、谷を囲む南の一峰に、昼は七星旗を立て、夜は七さん燈火ともしび明々あかあかと掲げよ、司馬懿を引き入れる秘策ゆえ、切に怠らぬようにいたせ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「四門を開けよ。開け放て。——門々には、水を打ち、かがり明々あかあかと焚き、貴人を迎えるごとく清掃せよ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひょんなお訊ねをいたしますが、この道筋に、明々あかあかともして起きていたおやしきはございませぬかな」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜もだいぶけているのに、本丸の奥には、つづみの音がえて聞え、明々あかあかとまだ燭もかがやいていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明々あかあかといつか夜明けの雲はひらけている。やがてもう往来も繁かろう。時刻は遅れるのみである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘、けいの音——そして、明々あかあかと、つぎ直されたあかしに、蓮華が、ひらひらと、かれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎夜のように、草庵は、明々あかあかとかがやく灯と、そうした人々の膝でいっぱいに埋められた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜はまだそうけてはいない。本棟の客殿には、なお明々あかあかと灯がかがやいていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう明々あかあかとした点し灯と人のなかで話していると、話している当人も、実際に出会った時のせつな程の恐怖は消えてしまいましたが、ことばは心と反対に、そのいかにすごかったかを誇張する。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして別の広間へは、明々あかあかと燭の数をつらねて、この下屋敷の女中どもを一人残らず居並べておけ! 酒肴しゅこうの用意手早くいたせよ! よいか! 明日あすまんじ丸の船出ゆえに、別れの宴をむのである
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気のせいか室内の灯はいつもより明々あかあかそよいでいる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)