断食だんじき)” の例文
旧字:斷食
(一行あき。)なんじら断食だんじきするとき、かの偽善者のごとく、悲しき面容おももちをすな。(マタイ六章十六。)キリストだけは、知っていた。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
またいお医者いしや出会であふことも有らうから、夫婦で茅場町かやばちやう薬師やくしさまへ信心しん/″\をして、三七、二十一にち断食だんじきをして、夜中参よなかまゐりをしたらからう。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その子供らはうすものをつけ瓔珞ようらくをかざり日光に光り、すべて断食だんじきのあけがたのゆめのようでした。ところがさっきの歌はその子供らでもないようでした。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
名画を破る、監獄かんごく断食だんじきして獄丁ごくていを困らせる、議会のベンチへ身体からだしばりつけておいて、わざわざ騒々そうぞうしく叫び立てる。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一行は十月の異国の寒空に、幾日かの断食だんじきを修行し、野宿し、まるで聖徒の苦行のような辛酸をめた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
明治二十年四月下旬になってから河野は百日間の断食だんじきぎょうを始めた。そして、七月の末になってもう二三日すると満行まんぎょうになると云う日になって、河野は宿の主人を呼んだ。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ごちそうは、のこりものでも、がまんすることにして、それでも、これからあと四週間ぐらい断食だんじきしてもいいといういきおいで、つめこめるだけ、たらふくつめこみました。
二十八のフランシスは何所どこといって際立って人眼を引くような容貌を持っていなかったが、祈祷きとうと、断食だんじきと、労働のためにやつれた姿は、霊化した彼れの心をそのまま写し出していた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
海軍機関学校に居る頃から、彼は外川先生に私淑ししゅくして基督を信じ、他の進級、出世、肉の快楽けらくにあこがるゝ同窓青年の中にありて、彼は祈祷きとうし、断食だんじきし、読書し、瞑想めいそうする青年であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「生命に危険はないと思いますが」Sさんはそう口を切った。多加志はSさんの言葉によれば、すっかり腸胃をこわしていた。この上はただ二三日のあいだ断食だんじきをさせるほかに仕かたはなかった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たべるときゃ断食だんじきゃいたさない。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
ある者は天をあおいで云う「あらずあらず。リチャードは断食だんじきをしてみずからと、命の根をたたれたのじゃ」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんじら断食だんじきするとき、偽善者のごとく、悲しき面容おももちをすな。彼らは断食することを人にあらわさんとて、その顔色をそこなうなり。誠になんじらに告ぐ、彼らは既にそのむくいを得たり。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うよ。梅「へえゝうま出来できてゐますね。×「おまへうしていたんだ。梅「へえじつは二十一にち断食だんじきをしました、一しんとゞいたものと見えます。×「ムヽウ、まゝ此位このくらゐ目出度めでたい事はないぜ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんじら断食だんじきするとき、——あの、十六歳の春に日記の巻頭に大きく書きつけて置いたキリストの言葉が、その時、あざやかによみがえって来た。なんじは断食するとき、かしらに油をぬり、顔を洗え。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
手紙なんぞをかくのは面倒臭い。やっぱり東京まで出掛けて行って、って話をするのが簡便だ。清の心配は察しないでもないが、清の注文通りの手紙を書くのは三七日の断食だんじきよりも苦しい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
断食だんじきをして座敷の内でお百度を踏んで祈念をこら貞信ていしんの心を、神さまも守って下さるかして、あれがお百度をあげる内は伊之助がトロ/\寝られるという、あんな結構な嫁を何咎なにとがも無いのに離縁して
しかし自分の許嫁いいなずけが他人に心を移したのは、なお情ないだろう。うらなり君の事を思うと、団子はおろか、三日ぐらい断食だんじきしても不平はこぼせない訳だ。本当に人間ほどあてにならないものはない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)