敵手あいて)” の例文
ト跡でお勢が敵手あいても無いに独りで熱気やッきとなって悪口あっこうを並べ立てているところへ、何時の間に帰宅したかフと母親が這入って来た。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかしその心中に燃ゆる憤怒の影から彼は新しい敵手あいての力量を知った。そしてこれがこの事件の大立物たる事を否定する事は出来なかった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
敵手あいてが刄物を持って居るのを見ては油断が出来ませんから、幸兵衞にひしと組付いて、両手を働かせないように致しました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三斎だ! 土部一族だ! そして、その土部一族に使われて、暗殺を引き受けるのは、言うまでもなく、門倉平馬——小梅以来の敵手あいてであろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一、敵手あいての中の主立おもだちたる一人は黒田藩の指南番浅川一柳斎と名乗り、五十前後の長身にて、骨柄逞ましき武士なること。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と米はかたわらから押隔てると、敵手あいてはこれなり、倉はせんを取られた上に、今のお懸けなさいましでかッとなっている処。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元来親方の敵手あいてでない。その中にお客さんが押しかけ始めた。日曜の朝を利用するのは大抵サラリーマンだ。それも親方が宣伝する通り、相応のところが多い。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
相談の敵手あいてにもなるまいがかゆ脊中せなかは孫の手に頼めじゃ、なよなよとした其肢体そのからだを縛ってと云うのでない注文ならば天窓あたまって工夫も仕様しようが一体まあどうしたわけ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けれど右門には、長兄あにの心が分ってみると、その長兄と恋を争う気にはとてもなれなかった。そういう恋の敵手あいてがないにしたところで、彼には、彼女へ、面とむかって
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵手あいてに取つて不足なき、敵には背後うしろの見せ易く、奥様と三に忍びし一郎の、旦那殿には忍び得で。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ぐたぐたとなってしまったばかりではなく、令嬢の愛が自分にないと知ると、自分の身を犠牲にして、恋の敵手あいてと云ってもよい高田と、自分の恋人とを、仲介しようとするような
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼奴かれめ敵手あいてとならんこと覚束おぼつかなし、わらわ夜叉神やしゃじんに一命を
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
敵手あいてそばにでもいるように、真黒になってまくしかける。高い男は先程より、手紙をッては読かけ読かけてはまた下へきなどして、さも迷惑なてい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おお、いよいよ、御一同、抜かれましたな——が、辻斬りで、年寄り子供を斬るとは、ちがって、お手向いいたす敵手あいてとなると、お気おくれがなさるようで——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おのれと死ぬものじゃから其の念を断つ処が出家の修行で、飽く迄も怨む執念をらんければいかん、それに貴様は幾歳いくつじゃ、十二や十三の小坊主が、敵手あいては剣術遣じゃないか
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
憎まねばならぬ筈の恋の敵手あいてとを、仲介しようとする、それでは至純と思われて居た筈の河野の最初の恋までが、イカサマな贋物のように思われるのではないかと雄吉は思った。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
敵手あいては女じゃありませんか。かわいそうに。私なら弁護を頼まれたってなんだってかまやしません。おまえが悪い、ありていに白状しな、と出刃打ちの野郎をめ付けてやりまさあ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして選ばれた敵手あいてを四人まで打ち伏せた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くらべられては敵手あいてにあらず。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
敵手あいてを片づけてしまった闇太郎、匕首の血を拭い清めて、別に呼吸も切らしていない。三人を引きうけて、匕首をぐうっと引きつけてかまえた雪之丞のうしろから
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
孝助は此奴等こいつら徒党ととうしたのではないかと、すかして向うを見ると、どぶふちに今一人しゃがんで居るから、孝助はねて殿様が教えて下さるには、敵手あいての大勢の時はあわてると怪我をする
「そもそも半座はんざを分けるなどとは、こういう敵手あいてつかやすい文句じゃないのだ。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに女のはこましゃくれているから、子供でも人のうちだと遠慮する。私一人ひとり威張っていられる。間違って喧嘩になっても、屹度きッと敵手あいてが泣く。然うすればお祖母ばあさんが謝罪あやまって呉れる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
敵手あいてが倒れてしまった瞬間に、市九郎は我にかえった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
向うへ対手あいてに廻しては、三味線の長刀なぎなた扇子おうぎ小太刀こだち、立向う敵手あいての無い、芳町育ちの、一歩を譲るまい、おくれを取るまい、稲葉家のお孝が、清葉ばかりを当のかたきに、引くまい、退くまい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何を云ッても敵手あいてにならぬのみか、この上手を附けたら雨になりそうなので、さすがの本田も少し持あぐねたところへ、お鍋が呼びに来たから、それを幸いにして奥坐舗へ還ッてしまッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「と、おっしゃって下すった処で、敵手あいてはお汁粉よ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乗り合いはますますさわぎて、敵手あいてなき喧嘩けんかに狂いぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)