摺足すりあし)” の例文
とひょいと立つと、端折はしょった太脛ふくらはぎつつましい見得みえものう、ト身を返して、背後うしろを見せて、つかつかと摺足すりあしして、奥のかたへ駈込みながら
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金之助は摺足すりあしではいった。毛氈もうせんを敷いて、酒肴しゅこうの膳を前に民部康継が坐っていた。金之助は思わずあっと云ってそこへ手をおろした。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
色白の女のように色の白い人で、お能役者のような摺足すりあしで歩いて、小倉こくらはかまを引きずり、さほど年もとっていないのに背中を丸くしていた。
越して太田に泊る宿狹けれど給仕の娘摺足すりあしにてちやつた待遇もてなしなり翌日雨降れど昨日きのふの車夫を雇ひ置きたれば車爭ひなくして無事に出立す母衣ほろ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
坐舗へ這入りざまに文三と顔を見合わして莞然にっこり、チョイと会釈をして摺足すりあしでズーと火鉢のそばまで参り、温藉しとやかに坐に着く。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
其の頃だから半髪青額はんはつせいてんでまだ若い十七八の男と、二十七八になる男と二人がすうと摺足すりあしをして出て来ました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もう二度と振向かずに廊下を摺足すりあしに歩いて、番茶のかおりが洩れる教員室にまた入ってしまった。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは何の狐疑心こぎしんでもなく裏の様子を見るための摺足すりあしでありましたが、そこまで行かぬ櫺子れんじの窓下へ来かかると、二寸ほど開いている小障子の間から、春陽はるびれる煎薬せんやくのにおいが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗いところを摺足すりあしして歩いて来るのは、女中のおとうに違いありません。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しばらくすると、ふたゝび、しと/\しと/\と摺足すりあしかるい、たとへば身體からだいものが、きびすばかりたゝみんでるかとおもられた。またかほげるとなんにもらない。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
腰をかがめ、摺足すりあしにて、撫子の前を通り、すすむる蒲団ふとんの座に、がっきと着く。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな脂切ったのがあるかと思うと、病上やみあがりのあおっしょびれが、頬辺ほっぺたくぼまして、インバネスの下から信玄袋をぶら下げて、ごほごほせきをしながら、日南ひなた摺足すりあし歩行あるいて行く。弟子廻りさ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時、人声静まりて、橋がかりを摺足すりあしして、膏薬こうやくねりぞ出できたれる。その顔はさきにわれを引留めて、ここに伴いたるかのむすめたるに、ふと背後うしろを見れば、別なるうつくしき女、いつか来て坐りたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)