がか)” の例文
私は今前後のがかりを忘れてしまったから、先生が何のためにこんな自白を私にして聞かせたのか、判然はっきりいう事ができない。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日になって見ると、九門はすでに堅く閉ざされ、長州藩は境町御門の警固を止められ、議奏、伝奏、御親征がかり、国事掛りの公卿くげの参内もさし止められた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ホテルの台所で米のめしくことも出来ず、とう/\仕舞しまいには米を始め諸道具一切の雑物ぞうぶつを、接待がかりの下役したやくのランベヤと云う男に進上して、ただもらっもらうたのも可笑おかしかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けれども、茶店ちやみせばあさんはしやうのものです。げんに、わたしとほがかりにぬまみぎはほこらをさして、(あれは何樣なにさまやしろでせう。)とたづねたときに、(さい神樣かみさまだ。)とつてをしへたものです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
通りがかりに自分の妾よりも美くしい女を見ると直ぐ換えたというほど盛んに取換えて、一生に百六十人以上の妾を持ったというはまた時代の悪瓦斯ガスに毒された畸行の一つであった。
「そりゃいいがかりというもので、原物を返せば論はないはずだ」という。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なぜ無法な言ひがかりなんかしたんだと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
町役人等押止おしとゞめて御二人とも御知らせ下されたる上からは御かゝり合はのがれぬなり先々御檢使ごけんしの御出まで御待候へとありければ兩人は大きに打驚き何も私し共がなしたる事には候はず全く通りがかりて見付しゆゑ御知せ申せし迄なり其者が掛り合とは甚だ迷惑めいわくと云を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今じゃ江戸へお帰りになって、昌平校しょうへいこう頭取とうどりから御目付(監察)に出世なすった。外交がかりを勤めておいでですが、あの調子で行きますと今に外国奉行でしょう。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れば、虚空こくうを通りがかりぢや。——御坊ごぼうによう似たものが、不思議な振舞ふるまいをするにつて、大杉おおすぎに足を踏留ふみとめて、葉越はごしに試みに声を掛けたが、疑ひもない御坊とて、拙道せつどうきもひやしたぞ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
甚六の言ひがかりをこばんだ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
入り込んで来る間諜かんちょうを警戒する際で、浪士側では容易にこの三人を信じなかった。その時応接に出たのは道中がかりの田村宇之助たむらうのすけであったが、字之助は思いついたように尋ねた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
橙背広のこの紳士は、通りがかりの一杯機嫌の素見客ぞめきでも何でもない。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
解こう。両方がこう意気込んでは、青麟輩に——断って置くが、意地にも我慢にも、所得は違うが——彼等に対して、いやしくも、糸七、弦光二人がかりのようで癪に障る。そこで、大切なその話はどうなったんだい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)