こま)” の例文
小事に齷齪あくそくしない手をこまぬいで、頭の奥で齷齪しているのである。外へ出さないだけが、普通よりひんが好いと云って僕は讃辞を呈したく思っている。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お光達には腕をこまぬいて立っている大河俊太郎の姿がはっきり見えた。兄はたまらないように「おうい」と叫んだ。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
手をこまねきて蒼穹を察すれば、我れ「我」をわすれて、飄然へうぜんとして、襤褸らんるの如き「時」を脱するに似たり。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たすける事も出來できぬとは兄といはるゝ甲斐もなくくやし涙がこぼるゝと手をこまぬけば弟の十兵衞は眞實しんじつぞと思へばいとゞ氣のどくさに兄樣あにさんまでに御心配下されますな御心切を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
七三郎の巴之丞が、洛中らくちゅう洛外の人気をそそって、弥生狂言をも、同じ芸題だしもので打ち続けると云う噂を聞きながら、藤十郎は烈しい焦躁しょうそうと不安の胸を抑えて、じっと思案の手をこまぬいたのである。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
錢形平次も腕をこまぬくばかり、この判じ物は容易に解けさうもありません。
ゆうべの豪雨が此の地方では多量のひょうを伴っていたため、漸く熟れ出した葡萄の畑という畑がこっぴどくやられ、農夫達は今のところは手をこまねいて嵐のやむのをただ見守っているのだと云う事が
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
同車どうしやひとかつたらぼく地段駄ぢだんだんだらう、帽子ばうしげつけたゞらう。ぼくつて、眞面目まじめかほして役人やくにんらしい先生せんせいるではないか、ぼくだがつかりしてこまぬいてしまつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
手をこまぬけば、吾胸の
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
したがってこの昂奮こうふんした青年をどう取り扱っていいかの心得が、僕にまるで無かった事もついでに断っておきたい。僕はただ茫然ぼうぜんとして手をこまぬいていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次は腕をこまぬきました。深沈たる瞳は何を考へて居るでせう。
付て居たりし折から顏色かほいろつねならいきせきと立戻たちもど突然いきなり二階の小座敷へ這入はひりし容子ようす啻事たゞごと成らずと久八が裏階子うらばしごより忍び上りふすまかげたゝずみてうかゞひ居るとは夢にも知らず千太郎はうでこまぬき長庵に欺かれて五十兩かたり取れし殘念さよと覺悟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕がこの過失に気がついたのは今から二三年前である。しかし気がついた時はもう遅かった。僕はただなす能力のない手をこまぬいて、心のうちで嘆息しただけであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次は腕をこまぬいて考へました。
惘然もうぜんとして煙草の煙を眺めている。恩賜の時計は一秒ごとに約束の履行をうながす。そりの上に力なき身を託したようなものである。手をこまぬいていれば自然と約束のふちすべり込む。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次は兩腕をこまぬきました。