押籠おしこ)” の例文
これではまるで押籠おしこめ同様だ、そう思った、想いは暗く、光りも希望もなかった、窓からは晴れてさわやかに風のわたる空が見えた。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
んでもないこと——、御新造様は今晩、御領地の信州へ、通し駕籠かごれて行かれ、一生其処そこ押籠おしこめられるので御座います」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おおロケット! どうしたかリーマン博士! 彼はわれわれをこの艇内に押籠おしこめて、地球を後に決然けつぜん大宇宙へ飛ぼうとするのだ!
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この事知りていさめし、内閣の秘書官チイグレルは、ノイシュワンスタインなる塔に押籠おしこめらるるはずなりしが、救ふ人ありて助けられき。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分をお叩頭じぎさせたり押籠おしこめたり裸にしたり踏踣したり、また場合に依ツたらころしもすることの出來る力があるかも知れぬが、たゞ一ツ
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その男への執着でなく、霊の恋の記念のものだけが焼きすてかねて、再び見まい、手にも触れまいと、一包にくくって、行李こうりの底に押籠おしこんでしまった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
御家門ごかもんの越後侯ですら、家中仕置不行届で領地を召しあげられ伊予の果てへ押籠おしこめになった。いかに榊原氏が御譜代でも、いざとなれば参酌さんしゃくはないのである。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
心の底に押籠おしこめられながら焦々した怒ろしいおもいはこの豊潤な肉体に対し、いよいよその豊潤を刺激して引立てる内部からの香辛料になったような気がする。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お菊は自分の部屋へ押籠おしこめられてしまった。初めから覚悟を決めている彼女は、ちっとも悪びれずに控えていると、暮六つの鐘がまだ聞えないうちに播磨は帰って来た。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
繋留場には、種牛の外に、二頭の牡牛もつないであつて、丁度死刑を宣告された罪人が牢獄ひとやの内に押籠おしこめられたと同じやうに、一刻々々と近いて行く性命いのちの終を翹望まちのぞんで居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして、それが意識下に押籠おしこめられて、精神的に彼を煙草嫌いにさせて了ったのでした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
くれば治承四年、淨海じようかい暴虐ばうぎやくは猶ほまず、殿でんとは名のみ、蜘手くもで結びこめぬばかりの鳥羽殿とばでんには、去年こぞより法皇を押籠おしこめ奉るさへあるに、明君めいくんの聞え高き主上しゆじやうをば、何のつゝがもおさぬに
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
父は磯良が五九切なる行止ふるまひを見るに忍びず、正太郎を責めて押籠おしこめける。磯良これを悲しがりて、六〇朝夕のつぶねことまめやかに、かつ袖が方へもひそかに物をおくりて、まことのかぎりをつくしける。
つかまった夜からすぐ、つなはこの部屋に押籠おしこめられた。家人には内密らしい、もう六十ばかりになる老女が、一人でつなの世話をした。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何方どつちにしても、俺の體は縛られてゐるんだ………縛られてゐるばかりじやない。窮窟きうくつ押籠おしこめられてゐるんだ。何うしたら此のなわが解けるんだ、誰か、俺を
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
お糸さまは飯倉のお長屋に押籠おしこめなっていられたのだそうですが、このほど、吉原へ奴勤やっこづとめに下げられることにきまったので、その前にお別れにいらっしゃったのです。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ではすぐに聞けるだろう、ここに押籠おしこめられているおれの耳にも聞えたのだ、甲斐にも聞える筈だからよく聞くがいい、彼はいま周防を
それからまた、我々われ/\の住むでゐる、社會には、何故人間をこさへる學校と人間を押籠おしこめて置く監獄とが存在してゐるのであろう。また何が故に別そうつてゐる人と養育院やういくゐんに入る人と。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
栄二は手鎖てぐさりの音をさせながら蚊を追った。そこは大川に面した長屋の空き部屋で、二人はもう十余日もいっしょに、その部屋へ押籠おしこめられていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十郎太は押籠おしこめられている家士たちを解放しにゆき、こいそは(やはり禁足されている)小者や召使たちに知らせて、朝食の支度をさせるために出ていった。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこはかつて、栄二が清七といっしょに手鎖の仕置を受けて、三十日のあいだ押籠おしこめられていた部屋である。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
林市郎兵衛の許婚者で、紀伊家の小田原河岸の下屋敷へ奥女中に入った娘があり、そこに押籠おしこめられている徹之助の妻と、連絡をとるような手筈になっていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「寛文三年このかた自分の意志で国老を辞任したのに、罪あって押籠おしこめられたというように届けられたそうである、この点を公儀において究明してもらいたい」
「あたしのことなど爪の先ほども気にしなかったくせに、国吉と逢ったらあんなひどい騒ぎかたをした、僅か三日とはいえ、あたしを押籠おしこめにしたし、国吉には暇を出した」
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「だってあなたは向うの一味でしょ、押籠おしこめられていたって、どこからどう連絡がつかないものでもないし、万三郎さまはあのとおり正直な方ですから、あなたがだますくらいぞうさのないことですもの」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)