慫慂しょうよう)” の例文
随筆家にて司法次官の友人大森洪太氏の慫慂しょうようにて全国の刑務所を同省委員等と視てまわる。健康をそこね、帰来、再び病床になずむ。
年譜 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第十二集の準備をしている時、郷里から財産整理のため、一応帰国してくれと慫慂しょうようしてきたので、私は明治二十四年晩秋に高知へ帰った。
白雲がこう説明して、この際、玉蕉女史に、暫く鳴りをしずめて、かの童子の出鱈目でたらめに制限を加えないように心づかいを慫慂しょうようしていると
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すぐに日本でプレスして売り出すように慫慂しょうようしたが、何かの都合でこれはなかなか実現されず、そのまま何年か過ぎてしまった。
と暗に、わたくしに遠慮することを慫慂しょうようして、その間に信玄袋の中に何か出し入れして仕末したり、感慨にふけったりする所作もありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
英国から再三の慫慂しょうようを受けたのにも応じなかったのは、ひとえに背後の米国を警戒して不足勝ちな石油を蓄積したいためと伝えられておりますが
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
イスとテーブルも兵舎的実用品で、席へつけば一同が実用的な心構えになることを慫慂しょうようされているようである。警官の臨観席の坐り心持であった。
安吾巷談:09 田園ハレム (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
両人の帰奉することを慫慂しょうようしたので、ようやく学良も安心して、ひそかに苦力クーリーに変装して奉天に帰って来たのであった。
私が張作霖を殺した (新字新仮名) / 河本大作(著)
ここに自分と向かい合っている男が、かつて鬼火の姥によって裏切りを慫慂しょうようされた時、現われて来た若い山伏——それであろうとは知らなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
齢すでに七十を越して、このうえ望むべき何もない心底であった。ところが図らずもこのたびある人から、報知新聞社長就任の慫慂しょうようを受けたのである。
春宵因縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
M氏は多く読み、英国労働組合内に友人を持ち、ロンドンに於けるインド留学生集会に招かれて自治論を慫慂しょうようした。
ロンドン一九二九年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
またさらに日を替えて下都賀郡役所でも被害民総代に向って郡長の立合で仲裁会委員から示談の慫慂しょうようがあった。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
紹介というより、慫慂しょうようといった方が正しい。五郎はそれに乗り、一番いい部屋をえらんだ。小城もその部屋を欲しがったが、ついに折れた。小城は言った。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
これを総括して改めて世にのこすことを慫慂しょうようせられ、さらにその整理校訂の労までを引き受けてくれられたことは、自分としては抑制しあたわざる欣喜きんきである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
吾人ごじんこれをつまびらかにせず、しかれどもその佐久間象山の慫慂しょうように出でたる事に至っては、た断じて疑うべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
憐愍れんびんをあたえるような態度で土地選定を慫慂しょうようした馬上の男は、ともに天をいただかずとした薩派さっぱ系の人物であったことだ。しかしそれも、時と所が変っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
これは桔梗の方の発案であって、織部正も和歌にかけては昨今大いに天狗てんぐになりかけている矢先ではあり、殊に夫人の慫慂しょうようでもあるから、一も二もなくその議に同意した。
先生年すでニ七十。嗣子遊蕩ゆうとうニシテ家道とみニ衰フ。人アリ慫慂しょうようシテ曰ク高齢古ヨリ稀ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その伝染病たることを闡明せんめいする意図のもとに作られたのなら、あのような(シナリオによって判断する)まわりくどい表現は不必要だし、またもし癩者の入園を慫慂しょうようするためならば
映画と癩の問題 (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
「まず第一に」と新左衛門は甲斐を見た、「貴方はまえから国老就任を慫慂しょうようされているのに、まだお受けにならない、どうしてお受けにならないのか、理由があったらうかがいたいのです」
けれども不意に座を立った姉の挙動が、もうすでにその状態をくずしていたので、お延の慫慂しょうようは何の効目ききめもなかった。母はとうとうすべてに対する責任を一人で背負しょわなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座長ハル博士「この光栄に対して、会長アインスタイン博士が欠席して居らるるのは遺憾いかんであります。衆議をもって、同博士の参加をもう一度慫慂しょうようしてはどうかと思いますが、御意見は……」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お糸さんは自分からは私にそういう読書を慫慂しょうようするようなことはなかった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
が、二葉亭が自ら本領を任ずる国際または経済的方面の研究調査にはやはり少しも同感しないで、二葉亭の不平を融和するかたわら、機会あるごとに力を文学方面に伸ばさしめようと婉曲えんきょく慫慂しょうようした。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
慫慂しょうようされたので、とにかく説の誤った所に注を施し、かつその後に発展させた所に著書もしくは論文の名を記入するに留めて、なるべく原形を保存することにし、昭和になってから物した論考で
「古琉球」改版に際して (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
理由をいわず、ただ外交官がイヤになったと、それだけを申し立てましたから、局長から辞表の撤回を慫慂しょうようせられ、先輩から説諭され、しまいには次官のところまで連れて行かれて、慰留されました。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「かねてから、江戸表のほうにも、しきりと風聞ふうぶんされていた。——たびたび、将軍家より老公へいちど出府あるようにと、慫慂しょうようされておらるる由を」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰か湯治客がこの辺で竹を取って、湯治中の消閑しょうかんに、手細工を試みたものでしょう。それを北原に取らせようと慫慂しょうようするのを、北原は首を左右に振って
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一方萩原仁右衛門も、水府館に仕えるよう、切に慫慂しょうようされたけれど、堅く辞して萩原へ帰った。そこで水府お館から、永世捨扶持えいせいすてぶちを給されることになった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の蹈海とうかい失敗後、野山の獄に拘せらるるや、その同囚富永有隣を慫慂しょうようして、曹大家そうたいこ『女誡』を訳せしむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
社会と人間との現実を描くことを慫慂しょうようした逍遙が、「当世書生気質」の描法にはおのずから自身が明治社会成生の過程に生きた青年時代の社会関係の角度を反映して
今日の文学の展望 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
祖父の偉れた点を語ることは、また、その孫娘に偉れることを慫慂しょうようすることでもあった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は永遠に前途を見つめた見地から英断を以てこの荒川堤の桜を他の安全地帯に移しそこに第二の大なる永久の名所を作る事を慫慂しょうようする。桜の名所は何も荒川堤でなくてもよい。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
小説と名はついても、文学だの芸術だのと面倒なことは云わず、最高級の娯楽品として、多くの頭脳優秀な人たちが、謎ときゲームのたのしさを愛されるよう慫慂しょうようしてやまないものである。
推理小説論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
おおいニ以テ可トシコレヲ慫慂しょうようス。すなわチ屋ヲ駒籠亀田鵬斎かめだほうさいガ故居ノ近傍ニしゅうス。前ハ老杉ニ対シ、後ハすなわチ密竹掩映えんえいス。破屋数間、蕭然しょうぜんタル几案きあん、始メテ老子ヲ講ジヌ。後ニ市ヶ谷ニ移居ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
家康にたいし、陰に陽に「いちど大坂へ上るべきである」という慫慂しょうようは、もう久しい懸案になっている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
健全結婚が慫慂しょうようされるとき、今日の結婚論は、人間と人間との間にある愛として、結婚に入る門口として、互の理解の大切さを前提しないのはどういうわけなのだろう。
結婚論の性格 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これによりて見れば、彼が蹈海とうかいの挙の、象山の慫慂しょうように出でたるは、火なお明なりとするに足らず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「正中の頃に日野資朝すけとも卿が、山伏姿に身をやつされ、諸国を巡って豪族を説いて、宮方へ加担を慫慂しょうようし、連判状をつくったと噂に聞いたが、その連判状がこれなんだね」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれど文聘ぶんぺいや王威が怒りもせず、あくまで根よく慫慂しょうようしている様子を、玄徳は見るに見かねて
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
資朝卿すけともきょう別館べつやかたの、無礼講の帰途深夜の町で、鬼火の姥に邂逅し、姥の不思議な魅力を持った言葉で、慫慂しょうようされたそのことが、潜在的に力あったことは、何んといっても争われなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よき意味のディレッタンティズムの発達慫慂しょうようはよい。
いかに秀吉に慫慂しょうようされたからとて、兄弟の神戸信孝を自刃せしめたり——近くは、戦捷せんしょうの功賞として、伊勢、伊賀、尾張全州の所領百七万石をうけて、大得意になったかと思えば、忽ち
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
墺国の皇女マリア・ルイゼをめとるよう慫慂しょうようし、墺国皇帝に対しても、政策上、ルイゼ姫をナポレオンへ人身御供とすべきよう進言し、これが成功して、欧洲第一の名家、ハプスブルグ家の姫君は
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
慫慂しょうようし実行させたのも、この高阪郡兵衛なのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、理を説いて本願寺一類の大坂退去を慫慂しょうようしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうぞ大砲を造るようにと彼に慫慂しょうようするのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
特使を蜀へ派して、なおなお善戦を慫慂しょうようしていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)