情無なさけな)” の例文
それを私は情無なさけなく、瓦の一撃で殺してしまった——そう思った時の私の苦しさは、ひとえに先生の御推察を仰ぐほかはございません。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
アンドレイ、エヒミチは奈何いかにも情無なさけないとふやうなこゑをして。『奈何どうしてきみ那樣そんな氣味きみだとふやうな笑樣わらひやうをされるのです。 ...
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
友達は情無なさけなささうな顔をした。ロツクフエラアが生れて一度も新約全書を読まなかつたと白状したところで、まさかそんな表情はすまいと思はれる程の顔だ。
あとで兩人ふたりはやや暫く無言に眼を見合せてゐた。自分は微笑んで、友はさも情無なさけないといふ風で。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
なんと、お祖父ぢいさん、情無なさけななかとなったではござらぬか、あさからばんまで流行りうかう仕入𢌞しいれまはって
然し其悲鳴して他の雄犬を追かける声は、世にも情無なさけなげな、苦痛其ものゝ声である。弱い者素より苦み、強い者がまた苦む。生物せいぶつは皆苦む。思うにいたましく、見るに浅ましい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お玉はお腹は減るし足は疲れるしただ情無なさけなさに「お母さん/\」と泣き叫びなが何処どこあてども無く広野原を歩いてきましたが其中そのうちに泣き疲れてあるくさむらの中に倒れて眠つてしまひました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
両親の歿なくなつたのも、わたくしであれ、貴方であれ、かうして泣いて悲む者は、ここに居る二人きりで、世間に誰一人……さぞみんなが喜んでゐるだらうと思ふと、唯親をなくなしたのが情無なさけないばかりではないのですよ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
息も引かぬうち情無なさけない長虫が路を切った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殺害に及びしなどとはゆめにも知らぬ無實むじつの難にて入牢なし其事故の分明あきらかわからぬ内に情無なさけなくも牢死に及びける故遂に死人に口なしとて悉皆こと/″\く長庵の佞辯ねいべんにより種々いろ/\言廻いひまはされをつと道十郎の罪科ざいくわとは定まりし事無念骨髓こつずゐとほり女ながらも再度ふたゝびねがひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
トウルゲネフは幼い時分、意地の悪い年上の子供にいぢめられた覚えがある、——丁度そんな情無なさけなさが、この時も胸へこみ上げて来た。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アンドレイ、エヒミチはいかにも情無なさけないとうようなこえをして。『どうしてきみ、そんなにいい気味きみだとうような笑様わらいようをされるのです。 ...
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
賽の河原は乱脈らんみゃくである。慈悲柔和じひにゅうわにこ/\した地蔵様が出て来て慰めて下さらずば、賽の河原は、実に情無なさけない場所ではあるまいか。旅は道づれ世はなさけ我儕われらは情によって生きることが出来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いきかぬうち情無なさけな長虫ながむしみちつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
憐むべき田中君は、世にも情無なさけない眼つきをして、まるで別人でも見るように、じろじろお君さんの顔を眺めた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
醫學いがくなるものを、つくづくと情無なさけなものかんじたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
医学いがくなるものを、つくづくと情無なさけなものかんじたのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)