いお)” の例文
するうちに、かさこそと、藪隣やぶどなりのあばら家から、一おうなが出て来て「このいおのあるじなら、とうにもう、ここにおいでられませぬ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おのがいおの壁のくずれかかれるをつくろはす来つる男のこまめやかなる者にて、このわたりはさておけよかめりとおのがいふところどころをもゆるしなう
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
毎日のように川をへだてて霧の中にチェルシーをながめた余はある朝ついに橋を渡ってその有名なるいおりをたたいた。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けふなん葉月はづき十四日の野辺のべにすだく虫の声きかんと、例のたはれたる友どちかたみにひきゐて、両国りょうごくの北よしはらの東、こいひさぐいおさきのほとり隅田のつつみむしろうちしき
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蕭条しょうじょうたる草のいおかどには梅阿弥の標札が掛かっていた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夏をむねと作ればいお野分のわきかな 也有やゆう
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ここに一年ひととせかりのいお
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
だから覚一も、しごく気やすく馴じんでいたところ、或る折、いお下僧げそうに、師の坊の経歴を聞かされて、彼は、まったくびっくりしてしまった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○毎週水曜日及日曜日をわがいおの面会日と定め置く。何人なんぴとにても話のある人は来訪ありたし。ただしこの頃の容態にては朝寐起後は苦しき故、朝早く訪はるる事だけは容赦ありたし。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
りし日の如くにつどひ余花のいお
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
自室へ入って、白い小袖や袴を解きすて、色の狩衣かりぎぬに着かえると、すぐにまた出て行った。いおのある小柴垣は、屋形と鑁阿寺との途中の森の小道だった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さびしさに堪へたる人のまたもあれないおを並べん冬の山里 (西行さいぎょう
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
秋雨をいて人来る山のいお
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「いつかも、答えおいた通り、僧門の身に、金はもたぬ、このいおにあるものなれば、何なりと持ってゆくがよい」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さびしさに堪へたる人のまたもあれないおを並べん冬の山里
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
此後こののち留守勝るすがちならん萩のいお
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こんどに限らず、いつも旅行癖にまかせて出ると帰りも忘れるらしい兼好法師が、ひょっこり、その旅疲れを吉田山のわがいおへ見せたのは六月の初めであった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上野は花盛はなざかり学校の運動会は日ごと絶えざるこの頃のいおながめ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
秋風のにわかに荒し山のいお
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
友松はやがていおの戸を押していた。この尼院を訪うごとにいつも感じるのは、常に箒目ほうきめのたててある平らかな庭土と、竹の葉ごしに屋のうちまで、清潔なひかりのしていることだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蚊遣火かやりびの煙にとざす草のいおを人しも訪はば水鶏くいな聞かせむ
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「そうそう、そういう噂はく聞いていた。……しかし、ご縁があるのじゃのう、なんでも、この辺りに住まわれているとは承っていたが、よもやこのいおが、あなたのお住居すまいとは思わなかったに」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いおをめぐらす垣根くまもおちず咲かせ見まくの山吹の花
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わしが帰って来たからといって、なにも急にこのいお
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すくなきはいおの常なり梅の花 蒼虬
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お客と聞いて、命松丸は、いおの表へ廻って行ったが
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いおの月あるじを問へば芋掘りに
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いお榎許えのきばかりの落葉かな 同
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「まあ、いおへ来なされ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春や昔の山吹のいお 田鶴でんかく
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)