山蛭やまびる)” の例文
妙義の山をめぐるあいだに、わたしは山蛭やまびるに足を吸われた。いくら洗っても血のあとが消えない。ただ洗っても消えるものでない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそろし山蛭やまびる神代かみよいにしへから此処こゝたむろをしてひとるのをちつけて、ながひさしいあひだくらゐ何斛なんごくかのふと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くちなわの様な山蛭やまびるが、まっくらな天井から、雨垂れを為して、私のえりくびに注いでいるのが想像された。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木から落ちる山蛭やまびるに、往来ゆききの人に取りつくぶよに、つよい風に鳴る熊笹くまざさに、旅するものの行き悩むのもあの山間やまあいであるが、音に聞こえた高山路はそれ以上の険しさと知られている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大密林の中で山蛭やまびるにくいつかれながら、いわゆる現地自活をやっていたのである。
又は露多き苔道こけみちをあゆむに山蛭やまびるひいやりとえりおつるなど怪しき夢ばかり見て覚際さめぎわ胸あしく、日の光さえ此頃このごろは薄うなったかと疑うまで天地を我につれなき者のよう恨む珠運しゅうん、旅路にかりそめの長居ながい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山蛭やまびるはだ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
この恐しい山蛭やまびる神代かみよいにしえからここにたむろをしていて、人の来るのを待ちつけて、永い久しい間にどのくらい何斛なんごくかの血を吸うと、そこでこの虫ののぞみかな
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅人はここらに多い山蛭やまびるに吸い付かれたのであった。土地に馴れない旅人はとかくに山蛭の不意撃ちを食って、吸われた疵口の血がなかなか止まらないものである。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山蛭やまびるぶよなぞの多い四里あまりのけわしいみねの向こうから通って来たのもその山道である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木から落ちる山蛭やまびる往来ゆききの人に取りつくぶよつよい風に鳴る熊笹くまざさ、そのおりおりの路傍に見つけるものを引き合いに出さないまでも、昼でも暗い森林の谷は四里あまりにわたっている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なるほどもり入口いりくちではなんこともなかつたのに、なかると此通このとほり、もつと奥深おくふかすゝんだら不残のこらず立樹たちきはうからちて山蛭やまびるになつてやう、たすかるまい、此処こゝ取殺とりころされる因縁いんねんらしい
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「旦那、気をおつけなさい。こういう陰った日には山蛭やまびるが出ます。」
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さればこそ山蛭やまびる大藪おおやぶへ入ろうという少し前からその音を。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ればこそ山蛭やまびる大藪おほやぶはいらうといふすこまへからおとを。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)