とんが)” の例文
そして眼には、大きな黒い眼鏡をかけ、いままで崩れた土塊をおこしていたらしく、右手には長い金属製のとんがづえをもっていた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お熊は四十格向がッこうで、薄痘痕うすいもがあッて、小鬢こびん禿はげがあッて、右の眼がゆがんで、口がとんがらかッて、どう見ても新造面しんぞうづら——意地悪別製の新造面である。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「移るものなら、もうとっくに移っていますよ。今から用心したって追っつきゃしない。」お庄はとんがったようなその顔を、まじまじ眺めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此方こつち意氣いきあらはれる時分じぶんには、親仁おやぢくるまのぞくやうに踞込しやがみこんで、ひげだらけのくちびるとんがらして、くだ一所いつしよに、くちでも、しゆツ/\いきくのだから面白おもしろい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どうかしてそのとんがった貧相なものにしてしまいたがる……一方はまた、美と不美とは論外に置くも、ともかくもあの特有の力は表現させてもらわなければならぬ
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
唄はきに杜絶えた。と、道が登り坂になって、蹄鉄ひづめのはげしく石に触れる音がする。馬子はぴしゃりぴしゃりと鞭をあてながら、とんがり声で馬を叱りとばしている。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
或る者はだんだら染めののとんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
齢は三十四五であるが、頭の頂辺てつぺん大分だいぶまろく禿げてゐて、左眼ひだりめが潰れた眼の上に度の強い近眼鏡をかけてゐる。小形の鼻がとんがつて、見るから一癖あり相な、抜目のない顔立である。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ロンネは鳥渡見ただけでは、三十前後にしか見えないけれども、彼は四十を幾つか越えていて冷たい片意地らしい、とんがった鼻をした男だった。そして、入るとすぐ、故意わざとらしい素振りをして
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「妙に神経をとんがらかしているんだね」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
八五郎は少しとんがりました。
其のとんがつたあぎとのあたりを、すら/\となびいて通る、綿わたの筋のかすかに白きさへ、やがてしもになりさうなつめたい雨。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「人に髪を結ってもらって、今からそんな雲上うんじょうを言うものじゃないよ。」と、母親も癇癪かんしゃくを起して、口をとんがらかしてぶつぶつ言いながら、髪を引っ張っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あれととんがった山の間あたりになりますな、あの山は鳶尾山とびおざんというんで、あれに抱かれてこうなったところに荻野山中、大久保長門守一万三千石の城下があろうというもんです、たとえ一万石でも
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
八五郎は少しとんがりました。
目の血走った、鼻のとんがった、やせッこけた女が、俯向うつむけなりになって、ぬっくりあらわれたのでございますよ。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなとんがった貧相ひんそうな男ではないと。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さては随筆に飛騨ひだ、信州などの山近な片田舎に、宿を借る旅人が、病もなく一晩の内に息の根がとまる事がしばしば有る、それは方言飛縁魔ひのえんまとなえ、蝙蝠に似たくちばしとんがった異形なものが
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)