安宅あたか)” の例文
「これは」と思って眼をやると、対岸安宅あたか町の方角で、飛び廻っている御用提灯ちょうちん! しかも五つ六つではない、二十三十乱れている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
謡曲のうちでも比較的芝居がかりに出来ているはち安宅あたか等ですら、処々しょしょ三四行乃至ないし十四行ずつ要領の得悪えにくい文句が挿まっていて
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その時私はひょっくりミッション・スクール時代のお友達で、今は知名のピアニストになっていられる安宅あたかさんにお会いした。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「曲者は安宅あたかの弁吉ですよ。やくざ者だが小太刀こだちの名人で、自分の腕に慢じて、武家の髷などを切って見度くなったんですね」
みのほかに、ばんどりとてたものあり、みのよりははうおほもちふ。いそ一峯いつぽうが、(こし紀行きかう)に安宅あたかうらを一ひだりつゝ、とところにて
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
手取川てどりがわ打越うちこし安宅あたかなどいたる処の敵を追い、また敵の援護となる部落を焼きたてて、金津かなつの先まで進出したときである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おりつは恐ろしさのあまり逃げ帰ったが、すると佐太郎が掛合にいき、どう話をつけたものか、こんどは本所安宅あたかの、岡場所の一軒へ奉公にやられた。
拝聴つかまつろうじゃないか。今大変なところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪と云う安宅あたかせきへかかってるんだ。——ねえ寒月君それからどうしたい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どんなに美味しい与兵衛や安宅あたかの寿司を提供したとてお客は元来蕎麦を食べにきたのだから満足はしない、いわんやそれが私という未熟な駄寿司たるにおいておや。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
先生の横っ面をぴしゃりとくらわせるというようなことは、米友として前例のない手厳しさであるが、米友としては、安宅あたかの弁慶の故智を学んだわけでもあるまいが
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駒形こまかたの渡し、富士見の渡し、安宅あたかの渡しの三つは、しだいに一つずつ、いつとなくすたれて、今ではただ一の橋から浜町へ渡る渡しと、御蔵橋みくらばしから須賀町へ渡る渡しとの二つが
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども友人の舌鋒ぜっぽうは、いよいよ鋭く、周囲の情勢は、ついに追放令の一歩手前まで来ていたのである。この時にあたり、私は窮余の一策として、かの安宅あたかせき故智こちを思い浮べたのである。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
「深川安宅あたか町大口横町すず」というのが一つ。
「こいついよいよ関所だわえ。安宅あたかの関なら富樫とがしだが鼓ヶ洞だから多四郎か。いやにらみのかねえ事は。……あいあいそれがし一人にて候」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「曲者は安宅あたかの辨吉ですよ。やくざ者だが小太刀こだちの名人で、自分の腕に慢じて、武家の髷などを切つて見度くなつたんですね」
安宅あたかの関の古蹟とともに、実盛塚は名所と聞く。……が、私は今それをたずねるのではなかった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渡し賃がるならくれてやらあ、手前たちは渡し賃を貰って人を渡しさえすりゃいいんだろう、通すの通さねえの、安宅あたかの関の弁慶みたいなごたいそうなことを言うない
こんど完成した二の丸御殿の舞台で、こけら落しとかいう、江戸から観世かんぜ一座が呼ばれ、殿さまも安宅あたかの弁慶をおつとめになる演能えんのうに、寄合以上の者が家族といっしょに拝見を許された。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
俺は最初幾松が臭いと思つたが、高瀬舟や安宅あたか長屋に潜つてゐちや人殺しはできない。万一そんなことが知れちや、おたな者は一代の恥つかきだ。
わにの口の安宅あたかをのがれ、倶利伽羅くりからの竜の背を越えて、四十八瀬に日を数えつつ、直江の津のぬしなき舟、朝の嵐にただよって、佐渡の島にもとどまらず、白山のたけの風の激しさに
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安宅あたかの関では弁慶の忠義、やっと関守せきもりをたぶらかし、脱け出すことは出来ましたものの、落ち行く先は辺鄙へんぴの奥地、ろくなたべ物とてはありますまいし、ろくなおとぎ衆とてもありますまいし
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪嶺先生の勉強時間を、なるべくさまたげないためで、この安宅あたかせきを首尾よく越えると、応接間である。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
北の海なる海鳴うみなりの鐘に似て凍る時、音に聞く……安宅あたかの関は、このあたりから海上三里、弁慶がどうしたと? 石川県能美郡のみごおり片山津の、直侍なおざむらいとは、こんなものかと、客は広袖どてらの襟をでて
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人は能の安宅あたかの弁慶、兜巾をいただき、篠懸すずかけをかけ、大口を穿き金剛杖をついて、威風堂々たる人物であり、一人はこれも羽衣へ出る、腰簑をつけた瀟洒しょうしゃとした漁夫で、手に櫂を持っており
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
安宅あたかの辨吉、小人こびと三次郎などはどうでせう。辨吉は小太刀をよく使ふさうで、仲間では評判の腕きゝですよ。小人三次郎は橋場の家に弟子を取つて、柔術やはらの稽古を
加賀の安宅あたかの方から、きまって、尼さんが二人づれ、毎年のように盂蘭盆うらぼんの頃になると行脚をして来て、村里を流しながら唄ったので、ふしといい、唄といい、里人は皆涙をそそられた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「冬次郎様にも安宅あたかの弁慶の、変装のもとに忍び込んでおられる」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
安宅あたかの弁吉、小人こびと三次郎などはどうでしょう。弁吉は小太刀をよく使うそうで、仲間では評判の腕ききですよ。小人三次郎は橋場の家に弟子を取って、柔術やわらの稽古を
「覚えておれ、鳥居前は安宅あたかの関だ。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今にも磔柱はりつけを背負はせるやうにおどかして、ようやく白状させましたよ——本所の安宅あたか長屋で丸太(船比丘尼ふなびくに)を相手してゐちや、幾松口がきけないのも無理はありません。
今にも磔柱はりつけを背負わせるようにおどかして、ようやく白状させましたよ——本所の安宅あたか長屋で丸太(船比丘尼ふなびくに)を相手にしていちゃ、幾松口がきけないのも無理はありません。
六七人集めて、安宅あたかの弁吉と小人こびとの三次郎と、俵右門とを見張らせてくれ。昼は要らない。夜だけだ。三人は何処へも出ないのに、髷切りがまだ続くようなら、考え直さなきゃならない
六七人集めて、安宅あたかの辨吉と小人こびとの三次郎と、俵右門とを見張らせてくれ。晝は要らない、夜だけだ。三人は何處へも出ないのに、髷切りがまだ續くやうなら、考へ直さなきやならない
その晩平次と八五郎は安宅あたかに飛んで、船比丘尼ふなびくにのおえのを搜しました。
その晩平次と八五郎は安宅あたかに飛んで、船比丘尼ふなびくにのおえのを捜しました。