妻子つまこ)” の例文
それから妻子つまこや書生の御機嫌取りだが、これも生きている利子と思えば何でもない。好きな小説本か何か読んで何も考えずに寝てしまう。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしているところへ、大国主神おおくにぬしのかみの子で、下照比売したてるひめのおあにいさまの高日子根神たかひこねのかみがおくやみに来ました。そうすると若日子わかひこの父と妻子つまこたちは
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
母もいらぬ、いもともいらぬ、妻子つまこもいらぬ。慾もなければ得もない。それでいてお露が無暗むやみに可愛のは不思議じゃないか。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「慾には、これで、うちにいる妻子つまこの顔を一目見て死にたいと思いますが、それは煩悩ぼんのうと申すものですからあきらめています」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お秋 だつてさ、さうぢや無いの? あんたが妻子つまこがありながら、沢ちやんの所へ来るのも、度々言ふけどそんな気持も、私だつて解つちやゐるのよ。
疵だらけのお秋 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
すめらみの、おためとて、備前びぜん岡山を始めとし、数多あまたの国のますらおが、赤い心を墨で書き、国の重荷を背負いつつ、命は軽き旅衣たびごろも、親や妻子つまこを振り捨てて。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
夜会へよばれて行く人もあれば、自分の妻子つまこを車に載せて、それを自分がいて花見に出掛ける車夫もある。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうすりゃ、今年の暮は去年のような事もあるまい。何も可愛かわゆ妻子つまこの為だ。私は兎に角書いて見よう。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
弥左ヱ門は村に火災くわさいありときゝて走皈はせかへりしに、今朝けさいでし家ははひとなりてたゞ妻子つまこ无㕝ぶじをよろこぶのみ。
またそれがためにいきほひし、ちからることは、たゝかひ鯨波ときげるにひとしい、曳々えい/\!と一齊いつせいこゑはせるトタンに、故郷ふるさとも、妻子つまこも、も、時間じかんも、よくも、未練みれんわすれるのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鋳物師 しかし妻子つまこを捨ててまでも、仏門に入らうとなすつたのは、近頃健気けなげな御志だ。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
当時は刀鍛冶で妻子つまこを養うこともできないような時であったといいます。それで妻子を養おうとするには、どうしても古刀の「にせもの」を作るよりほかにその日の暮らしようがありません。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鈴鹿山世をふりすてて妻子つまこにもかへたる道に奥やありけん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
しかり、泣く、妻子つまこの心!
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
弥左ヱ門は村に火災くわさいありときゝて走皈はせかへりしに、今朝けさいでし家ははひとなりてたゞ妻子つまこ无㕝ぶじをよろこぶのみ。
幸助を中にして三つの墓並び、冬の夜はみぞれ降ることもあれど、都なる年若き教師は源叔父今もなお一人さみしく磯辺に暮し妻子つまこの事思いて泣きつつありとひとえに哀れがりぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
またそれがためにいきおいを増し、力をることは、たたかい鯨波ときを挙げるにひとしい、曳々えいえい! と一斉に声を合わせるトタンに、故郷ふるさとも、妻子つまこも、死も、時間も、慾も、未練も忘れるのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょっと辻褄つじつま合わぬか知らぬが。チャント合うのが木魚の話じゃ。すべてキチガイ患者を連れて。赤い煉瓦のお玄関先げんかさきへ。お辞儀しに来る連中の中でも。親や兄弟、妻子つまこやなんぞは。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
枕頭まくらもとの方では、乳臭い子供のにおいをたずねると見え、幾羽となく集って来ていた。蚊帳の内にも飛んでいた。三吉は床を離れた。蝋燭ろうそくとマッチを探って来て、火をともした。妻子つまこはいずれもよく寝ていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
田も家も無さを悲むうらうへに有れば歎きぬわが妻子つまこまで
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
妻子つまこの留守に。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分は縁先に出て月をながめ、おぼろにかすんで湖水のような海を見おろしながら、お露の酌で飲んでいると、ふと死んだ妻子つまこのこと、東京の母やいもとのことを思いだし、又この身の流転を思うて
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)