喧嘩げんか)” の例文
うちのほうでは今日もひどい御夫婦喧嘩げんかをあそばしたそうですよ。ただ一人の娘のために自分の子供たちを打ちやっておいて行った。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
例によって角造が飲み続けたあげく、おひさを芸妓屋へ売ろうと云いだし、そのためひどい夫婦喧嘩げんかになった、というのである。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
最後の甚だしみったれた時間を夫婦喧嘩げんかに費すという身分ででもあれば、私は、大阪の土地くらい煙たい階級のいない、のんきな、明るい
たとえば、どの家では今日牛肉の上等を百目買ったとか、どこの家では昨晩夫婦喧嘩げんかをやったとか、まあそんなことです。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しょうことがない。恥を受けるときは一しょに受けい。兄弟喧嘩げんかをするなよ。さあ、瓢箪で腹を切るのをよう見ておけ
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしながらこれを親子喧嘩げんかと思うと女丈夫の本意にそむく。どうしてどうして親子喧嘩……そんな不道徳な者でない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
の世い行ったらもう焼餅喧嘩げんかせんと仲脇仏わきぼとけのように本尊の両側にひッついてまひょと、光子さん真ん中に入れて枕並べながら薬飲みましてん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれどもいずくんぞ知らん、外より共に帰って家庭内の人となるや、往々にして、たちまち夫婦喧嘩げんかを演じ、声荒々しく膂力りょりょく逞しき妻にその手をねじ伏せられて
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
路傍みちばたには同じように屋台店が並んでいるが、ここでは酔漢の三々五々隊をなして歩むこともなく、彼処かしこでは珍しからぬ血まみれ喧嘩げんかもここでは殆ど見られない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夫婦喧嘩げんかのときにはいつも彼の肩をもち、日ぐれどきの世間ばなしにこの話題が出ると、ヴァン・ウィンクルのおかみさんを、さんざんにこきおろしたものである。
都も場末ばすえの今出川の荒れやしきに、十年の余も、雨もりのつくろい一つせず、庭草も刈らず、住み古して、家の中では、父と母とが、のべつ夫婦喧嘩げんかばかりやっていた。
まあ素人しろうと下宿、とでも言うのか、中年の大工と女房と十歳くらいの娘と三人暮しの家で、下宿人は私ひとり、大工は酒飲みで時々夫婦喧嘩げんかなんかはじめているが、でも
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
父親と母親とで恐しい夫婦喧嘩げんかをして、母親が「さあ、殺せ、殺すなら殺せ」と泣叫んだことも憶出しました。しまいには私が七つ八つの頃のことまでかすかに憶出しました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
舞台は乱暴な夫婦喧嘩げんかの処だった。おおあの女だ。いかにも得意らしくしゃべっているあのひとの相手女優を見ていると、私は初めて女らしい嫉妬しっとを感じずにはいられなかった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その時、ちょうど夫婦喧嘩げんかをして妻に敗けた夫が、理由もなく子供をしかったりいじめたりするような一種の快感を、私は勝手気儘かってきままに短歌という一つの詩形を虐使することに発見した。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
先の日曜日に大喧嘩げんかをした豪傑連の一人だった。彼はクリストフの隣りのテーブルにすわり、もう酔っ払いながら、人々の顔をじろじろながめては、ひどい毒舌を投げつけていた。
木山弾正か四天王但馬守か判断がつかなくなり、近松の級三十人ばかりと、米村の級二十五六人ばかりが対抗して、木山だ、いや四天王だと云い張って、危なく大喧嘩げんかになろうとした。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
そのうちそれがだんだん夫婦喧嘩げんかになってきて、夏の半ばも過ぎた時分には、つい隣りの外人の家族たちにも手にとるように聞えるようになる、——何しろ、ふだんからむっつりとして
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あなたとはずいぶん口喧嘩げんかをしましたが、奥さんができたらずいぶんかわいがるでしょうね、そうしてお子さんもたくさんできるわ。そうして物干し竿ざおにおしめがにぎやかに並びますわ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
痴話喧嘩げんかのあとは、小菊も用事をつけるか、休業届を出すかして骨休めをした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
又もや兄弟喧嘩げんかがはじまつたが、大野屋の両親にもその裁判が付かなかつた。
試みに、夫婦喧嘩げんかの芝居を舞台にかける場合を考えてみるとよい。
料理芝居 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
女の子が四五人で遊んでいると、よくそんな口喧嘩げんかをしたものである。それを云ってからかうと、猪之は赤くなって怒った。
何だ? これがダンスと云うものなのか? 親をあざむき、夫婦喧嘩げんかをし、さんざ泣いたり笑ったりした揚句の果てに、おれが味わった舞蹈会ぶとうかいと云うものは
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが、一家に於て始終親子喧嘩げんかをしてばかりおっては安眠が出来ぬから、夫婦、親子は平和にして争わぬようにしようじゃないか。そこで、今度は隣りと争う。
大戦乱後の国際平和 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
吝嗇りんしょくの事や、さもしい夫婦喧嘩げんか、下品な御病気、それから容貌のずいぶん醜い事や、身なりの汚い事、たこの脚なんかをかじって焼酎しょうちゅうを飲んで、あばれて、地べたに寝る事、借金だらけ
(新字新仮名) / 太宰治(著)
いかなる過失も許さなかったし、ほとんどいかなる悪癖をも許さなかったので、冷淡な傲慢ごうまんな女だと人から見られていた。非常に信心深かったが、それが絶えざる夫婦喧嘩げんかの種となった。
『また、おふたりの夫婦喧嘩げんかか。……なアんだ、めずらしくもない』
瀬古 夫婦喧嘩げんかの仲裁なら僕がしてやるよ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「よけいなお世話かもしれないけど、あたしゃあんな夫婦喧嘩げんかを見たのは生れて初めてだよ」とべつのかみさんはいった
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、どう云う切掛きっかけでそうなったのか貞之助達には分らなかったが、論議はいつの間にか「お婆ちゃん」とカタリナの親子喧嘩げんかにまで発展して行った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「夫婦喧嘩げんかの仲裁はごめんだな。」と、ちょっと不安そうな顔をして言った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
貞之助はに上気して口惜くやし涙を浮かべている妻の顔に、いつもこんな表情をして姉妹喧嘩げんかをしたであろう遠い昔の、幼い日の姿をなつかしく想いやった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこは主人夫妻の寝る八帖で、主婦のおそでがそういう声を出すときは、きまってやきもち喧嘩げんかであり、主人の西川文華はすぐさま記事部屋のほうへ逃げて来るのがきまりだった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時たま夫婦喧嘩げんかみたいな事をはじめ、胸の病気のほうは一進一退、痩せたりふとったり、血痰けったんが出たり、きのう、テツにカルモチンを買っておいで、と言って、村の薬屋にお使いにやったら
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
………孰方どちらにしてもあの男とは縁がなかったのだけれども、たまたまそんな家庭的不和の中へ飛び込んで来て、兄妹喧嘩げんかの道具にされたのはあの男の不運であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よく夫婦喧嘩げんかをして、そのたんびに、おばあさんが、でえじにしてくんな、とおじいさんに言い、私は子供心にもおかしくて、結婚してから夫にもその事を知らせて、二人で大笑いしたものでした。
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
「まあ、まあ、姉ちゃんの前でそないに僕に恥かさんでもえやないか。」「そんならもっと機嫌ようしたらどやねん?」いうて、ずるずるべったりに焼餅喧嘩げんか止めてしもて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この頃若旦那とこいさんとはよく痴話喧嘩げんかをする、そんな時に若旦那が「三好」と云う名を口にして嫌味いやみを云っておられるのを、たびたび聞いた、何でも神戸の人間らしいが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)