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吹通
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ふきとほ
むら
雨を
吹通した
風に、
大火鉢の
貝殼灰——これは
大降のあとの
昨夜の
泊りに、
何となく
寂しかつた——それが
日ざかりにも
寒かつた。
搖上げ
搖下し
此方へ
漂ひ彼方へ
搖れ正月四日の
朝巳の
刻より翌五日の
申の
刻まで風は少しも
止ず
吹通しければ二十一人の者共は
食事もせす
二日二夜を
同やうに
吹通しの、
裏は、
川筋を
一つ
向うに、
夜中は
尾長猿が、キツキと
鳴き、カラ/\カラと
安達ヶ
原の
鳴子のやうな、
黄金蛇の
聲がする。
吹通しの
風砂を
捲きて、
雪駄ちやら/\と
人の
通る、
此方は
裾端折の
然も
穿物の
泥、
二の
字ならぬ
奧山住の
足痕を、
白晝に
印するが
極惡しなど
歎つ。
其の
暗夜から、
風が
颯と
吹通す。……
初嵐……
可懷い
秋の
聲も、いまは
遠く
遙に
隅田川を
渡る
數萬の
靈の
叫喚である。……
蝋燭がじり/\とまた
滅入る。
あしの
根に
近づくと、またこの
長汀、
風さわやかに
吹通して、
人影のないもの
閑かさ。