吐露とろ)” の例文
適当のところでじょじょに到達して、いよいよ前途に光明を認めたという時、ここに初めて真情を吐露とろしようと考えていたのである。
「忠義を旗に書いて待っているだけでは駄目です。もっと憂国の至情を吐露とろなさい。鉄血、人を動かすものをぶっつけなさい」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以上に掲げた孔子の諸語は一貫して顔淵への愛情を吐露とろしている。そうしてこの傾向は下論に至って一層強度を増すのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
痴川は如何にも自分は真実を吐露とろすといわんばかりに、あたかも何か怒るような突きつめた顔でどもりがちの早口で呟いていたが、急に言葉を切った。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
我が南洲翁なんしゅうおうもややおなじ境遇にあるの時、同じ意志を吐露とろした。翁が田原坂たばるざかの戦いのころ、大山県令おおやまけんれいに寄せた書翰しょかんいわ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
不上酒閣しゆかくにのぼらず 不買歌鬟償かくわんをかはずつぐなふ 周文画しうぶんのぐわ 筆頭水ひつとうのみづ 墨余山ぼくよのやま」のことばを寄せたるは、恐らく真情を吐露とろせしなるべし。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
フランスではロダンの為事場しごとばに入り浸りになっていて、ロダンの評を書いたのですが、ロダンを評したのだか、自家の主観を吐露とろしたのだか分からないような
日ごろから紋也が接近しようとして苦心して手蔓てづるを求めていた相手で、これらの人々と懇親となり、これらの人々へおのが思想を、吐露とろしたあげくにこれらの人々が
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あまりこの男を信用していない彼女は、彼の真情の吐露とろもいい加減聞ききると、プーキシンを朗読させるのだった。それは、彼女の言い草に従えば、空気を清めるためだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
昨日きのふ小膽せうたんつたことも、つきさへも氣味きみわることも、以前いぜんにはおもひもしなかつた感情かんじやうや、思想しさうありまゝ吐露とろしたこと、すなは哲學てつがくをしてゐる丁斑魚めだか不滿足ふまんぞくことふたことなども
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
行幸に供奉ぐぶし、赤人は歌人としての意識を以てこの歌を作ったのだろうが、必ずしも「宮廷歌人」などという意図が目立たずに、自由に個人としての好みを吐露とろしているようである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
次にこの十五年の祝典についていささか私の考えを吐露とろしようと思います(拍手)。
確かに彼は、私の目鼻めはなや皺などが、紙に書かれた文字ででもあるかのやうに、ゆつくりと私の顏を讀まうとするやうに見えた。この穿鑿せんさくから引出された結論を、彼は幾分か次の意見の中に吐露とろした。
永野の葉書には、『太宰治氏を十年の友と安んじ居ること、真情吐露とろしてお伝え下されく』とあるから、原因が何であったかは知らぬが、益々交友のちぎりを固くせられるよう、ぼくからも祈ります。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
戦衣を解かないでいる理由を六ヵ条にわけてしるし、不撓不屈ふとうふくつ、ただ先帝の遺託いたくにこたえ奉るの一心と国あるのみの赤心を吐露とろし、その末尾の一章には
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日きのう小胆しょうたんであったことも、つきさえも気味きみわるたことも、以前いぜんにはおもいもしなかった感情かんじょうや、思想しそうありのままに吐露とろしたこと、すなわ哲学てつがくをしている丁斑魚めだか不満足ふまんぞくのことをうたことなども
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いちいち真実を吐露とろし合っていたんじゃ、やり切れない。私は、いつもだましていた。それだから女房は、いつも私を好いてくれた。真実は、家庭の敵。嘘こそ家庭の幸福の花だ、と私は信じていた。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ぼくの思いのありったけを吐露とろしなければ「そうか、貴様はそういう考えか」と、得心して貰えそうもない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まったく一個の素肌の人間がありのままに感情を吐露とろしているすがたとしか見られなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、心底のものを吐露とろするように、ふたたび平伏して信長の公明な仁恕じんじょを仰いだ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車舎人くるまとねりとして、都で仕えた藤原忠平を、心にたよって——摂関家への、上訴と、そして情状の酌量をも仰いだ——彼としては、一字一行も、涙なきを得ない、衷心ちゅうしん吐露とろした文書である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど顕家が精いッぱいな憂心の吐露とろではあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)