古狸ふるだぬき)” の例文
この老婆ろうばは以前は大塚おおつか坂下町辺さかしたまちへん、その前は根岸ねぎし、または高輪たかなわあたりで、度々私娼媒介ししょうばいかいかどで検挙せられたこの仲間の古狸ふるだぬきである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
のどを痛めるぞ、ばかな古狸ふるだぬきめが。気の毒だが、大声を出したってだめだ。まったく、雷鳴かみなりとは聞こえないや、せきくらいにしか思われない。」
およそ古今武将の中で、徳川家康とくがわいえやすという古狸ふるだぬき位、銭勘定の高いやつは無いとじゃった。欲ばかり突張っていたその為に、天下も金で取ったようなもの。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
一万円の身代金はとられる、娘は返して貰えないというのでは、流石さすが実業界では古狸ふるだぬきとまで云われている策士の伯父も、手のつけ様がないのでしょう。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうして食つたと云ふのですか? それはたぬき悪企わるだくみです。婆さんを殺した古狸ふるだぬきはその婆さんにけた上狸の肉を食はせる代りに婆さんの肉を食はせたのです。
教訓談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
第四種(鳥獣編)妖鳥、怪獣、魚虫、火鳥、雷獣、老狐ろうこ九尾狐きゅうびのきつね白狐びゃっこ古狸ふるだぬき腹鼓はらつづみ妖獺ようだつ猫又ねこまた天狗てんぐ
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
わたくしなど古狸ふるだぬきの身なればとかくつくろひて一日二日と過し候へ共、筋のなきわからずやをおほせいだされ、足もとから鳥の立つやうにおきたてなさるにはおほ閉口に候
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あんまりはっきりした話なので、さすがの古狸ふるだぬきのテイイ事務長も、かんたんな返事しかいえなかった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんじは、汝個人のおそろしさ、怪奇、悪辣あくらつ古狸ふるだぬき性、妖婆ようば性を知れ! などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
付れども主税之助は兎角とかく安心せず否々いや/\う手輕く申せども内記殿の心中がどうも心配なれば公事の始末しまつを話して見よすけ十郎郷右衞門の兩人へ惣右衞門と云ふ古狸ふるだぬき後見こうけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「なにも信心気でやるわけじゃねえ。いわば勤気つとめぎよ。お前さんにしろおれにしろ、吉原じゃあ古狸ふるだぬきだ。ところで、お前さんに頼みというよりは、清坊に頼みがあるんだが」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
茸爺きのこぢゞい茸媼きのこばゞともづくべき茸狩きのこがりの古狸ふるだぬき町内ちやうない一人ひとりぐらゐづゝかならずあり。山入やまいり先達せんだつなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『何だ古狸ふるだぬき!』
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
わしがこれでも古狸ふるだぬきであることを、お前は知らなかったんだ。どうだね。腹が立つかね。祖父おじいさんを少しばかにしてやろうなどと思っても、そうはいかないさ。
前学年に及第できなくて原級にとどまった所謂古狸ふるだぬきの連中の話に拠れば、藤野先生は服装に無頓着むとんじゃくで、ネクタイをするのを忘れて学校へ出て来られる事がしばしばあり、また冬は
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
次第しだい短氣たんきのまさりて我意わがまゝつよく、これ一つはとしせいには御座ござ候はんなれど、隨分ずいぶんあたりのものげんのりにくゝ、大心配おほしんぱいいたすよし、わたくしなど古狸ふるだぬきなれば兎角とかくつくろひて一日二日とすごし候へども
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見たでしょう。ああ、市長の古狸ふるだぬきめ、私をおどかしにきたんでしょうが、だれがお前さんをこわがるものかね。私はジャヴェルの旦那がこわい。親切なジャヴェルの旦那がこわいのさ!
お前さんは新参だが、私は古狸ふるだぬきだ。何もかもよく承知してるよ。うまいことを教えてやろう。ただこれだけはどうにもならない、日が入りかかってることだけは。向こうの丸屋根に落ちかかってる。
「いけねえ、古狸ふるだぬきめ、おれたちが先だ。」