卓子テイブル)” の例文
いつか散歩のついでに町の花屋で買って来たサイネリヤが、雑誌や手紙や原稿紙の散らばった卓子テイブルすみに、わびしくしおれかかっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
電燈の球は卓子テイブルの上をったまま、朱をそそいだようにさっあかくなって、ふッと消えたが、白くあかるくなったと思うと、あおい光を放つ!
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査は紙入を抜き出したが中は改めずに電話機の下に据えた卓子テイブルの上に置き、「その包は何だ。こっちへ這入ってほどいて見せたまえ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
にわあそんでいると、大きな庭石にわいしの上にのぼってよろこんでいますし、へやの中にいると、つくえ卓子テイブルの上にすわりこんでいます。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
其頭にポカ/\と拳骨が飛ぶ、社長は卓子テイブルの下を這つて向うへ抜けて、抜萃きりぬきに使ふ鋏を逆手に握つて、真蒼な顔をして、「発狂したか?」と顫声で叫ぶ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一個の綺麗きれいな小箱を卓子テイブルの上にせて立去った。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
安ものの青い絨毯じゅうたんが敷かれて、簡素な卓子テイブル椅子いすが並んでおり、がっちりした大きな化粧台の上に、幾つかの洋酒のびんも並んでいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雪踏せったをずらす音がして、やわらかなひじを、唐草の浮模様ある、卓子テイブルおおいに曲げて、身を入れて聞かれたので、青年はなぜか、困った顔をして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次の日われサンジェルマンの四ツ角なる珈琲店カッフェーパンテオンにて手紙書きてゐたりしに、向側なる卓子テイブル二人ににんの同胞あり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
五十幾つの胸にも火事が始まる。四間に五間の教場は宛然まるで熱火の洪水だ。自分の骨あらはに痩せた拳がはた卓子テイブルを打つ。と、躍り上るものがある、手を振るものがある、万歳と叫ぶものがある。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と無意識に小児こどもの手を取って、卓子テイブルから伸上るようにして、胸を起こした、帯の模様の琴の糸、ゆるぐがごとく気を籠めて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の卓子テイブルなどをも書き入れて差し押えられたからで、それをくのに少し手間がかかったが、それも春日の事務所にいる若い弁護士にまかせてあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
このゆうべばかりは怪しくも中央停車場に出で行く心起りて、食堂の卓子テイブルに汽車出づる間際まで令夫人令嬢と共に珈琲コーヒーをすすりこの次夏の休みの御上京を待たんと言ひしがそは全くあだなる望にてありけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
梅野は敏捷すばしこく其手を擦り抜けて、卓子テイブルの彼方へ逃げた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
聞きも果てず、満面に活気を帯びきたった竜田は、飜然ひらりと躍込み、二人のなかと立って、卓子テイブルに手をいたが、解けかかる毛糸の襟巻の端を背後うしろねて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
栗栖はすみ椅子いす卓子テイブルなどを置いてある八畳の日本で、ドイツ語の医学書を読んでいたが、銀子の牡丹がふらふらと入って来るのを見ると、見られては悪いものか何ぞのように、ぴたりと閉じた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひとりうなずいて、大廻りに卓子テイブルの端を廻って、どたりと、腹這はらんばいになるまでに、拡げた新聞の上へ乗懸のりかかって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わし卓子テイブルの向いに、椅子を勧められて真四角まっしかくに掛けたのじゃが、硝子がらす窓から筑波山の夕日がして、その生理学教室を𤏋ぱっと輝かした中に、国手のわかい姿が、神々しいまでに見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テイブルの上に両方からつないで下げた電燈の火屋ほや結目むすびめを解いたが、うずたか書籍しょじゃくを片手で掻退かいのけると、水指みずさしを取って、ひらりとその脊の高い体で、靴のまま卓子の上にあがって銅像のごとく突立つッたった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)