初霜はつしも)” の例文
ほかからくれる十円近くの金は故里ふるさとの母に送らなければならない。故里ふるさとはもう落鮎おちあゆの時節である。ことによるとくずれかかった藁屋根わらやね初霜はつしもが降ったかも知れない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山家やまが村里むらざと薄紅うすくれなゐ蕎麥そばきりあはしげれるなかに、うづらけば山鳩やまばとこだまする。掛稻かけいねあたゝかう、かぶらはや初霜はつしもけて、細流せゝらぎまた杜若かきつばたひるつきわたかりは、また戀衣こひぎぬ縫目ぬひめにこそ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うち定紋じょうもんを染出した印半纒しるしばんてんをきて、職人と二人、松と芭蕉ばしょうしもよけをしにとやって来た頃から、もなく初霜はつしもひる過ぎから解け出して、庭へはもう、一足も踏み出されぬようになった。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
初霜はつしもけて、昨夜さくやえんげられた白菊しらぎくであろう、下葉したはから次第しだいれてゆくはな周囲しゅういを、しずかにっている一ぴきあぶを、ねこしきりにってじゃれるかげが、障子しょうじにくっきりうつっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたしをふせて、まへにおかれた初霜はつしもさら模様もやう視線しせんをやつてゐました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
心あてに折らばや折らむ初霜はつしもの置きまどはせる白菊の花
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
心あてに折らばや折らむ初霜はつしも
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)