入浸いりびた)” の例文
本に両為りようだめで御座んすほどにと戯言じようだんまじり何時となく心安く、お京さんお京さんとて入浸いりびたるを職人ども翻弄からかひては帯屋の大将のあちらこちら
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「師匠のところ——親分も御存じでせう、お舟さんのところへ入浸いりびたつてゐる頃は、伊丹屋の若旦那がよく此處へ見えましたよ」
「ああ何時も何時も、あちらにばかり入浸いりびたっているのを、私という老人もいながら、放っとくわけにもいくまいではないか。」
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その頃の書生は今の青年がオペラやキネマへ入浸いりびたると同様に盛んに寄席よせかよったもので、寄席芸人の物真似ものまねは書生の課外レスンの一つであった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その女というのが、美人の本場の越後から流れて来たとやらで、島ちゃんの旦那は碌素法ろくすっぽう工場へ顔出しもしないで、そこへばかり入浸いりびたっていたんだって。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
結局がんりきがお角の前に謝罪あやまって、やっとその場を済ませたけれど、それからお角はがんりきの家に入浸いりびたりで、その傍に附きっきりということになってしまいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
玄関げんくわん式台しきだいへ戸板に載せてかつぎ込まれたのは、薩州の陣所へ入浸いりびたつて半年も帰つて来ぬ朗然和上が、法衣を着た儘三条の大橋おほはし会津方あひづがたの浪士に一刀眉間を遣られた負傷ておひの姿であつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
存ぜざる段不埓ふらちなりなほほかに何ぞ心當りの事は之無これなきやと申されければ庄三郎何も是と申す程の儀御座なく候へども髮結かみゆひ清三郎と申す者常々つね/″\入浸いりびたり居しは心得難く候と申立るに大岡殿同心どうしん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なかにも沼波瓊音氏は家族を挙げて、その女神様をんなかみさまもと入浸いりびたりになつてゐる。
彼女が私を引っぱり出してこんな事をして遊びまわるのは、叔父の待合に入浸いりびたっているか、又は旅行している間に限っていたので、公園前の自宅に私を引っぱり込むような事は絶対にしなかった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ほんに兩爲りやうだめ御座ござんすほどにと戯言じようだんまじり何時いつとなく心安こゝろやすく、おきやうさんおきやうさんとて入浸いりびたるを職人しよくにんども挑發からかひては帶屋おびや大將たいしやうのあちらこちら
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可愛いいをひの八五郎が、十手も捕繩も投り出して、近所の浪人者のところに入浸いりびたつてゐるのが氣に入らなかつたのです。
おとらが内々ないないお島の婿にしようと企てているらしい或若い男の兄が、その頃おとらのところへ入浸いりびたっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お為ごかしを言っておいて、お前はこのお邸のお部屋様のところへでも入浸いりびたるんだろう」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
処でおらの旦那がお世辞半分に新聞記者の天職をさかんなりと褒めて娘も新聞記者につもりだと戯謔面からかひづら煽動おだてたから、先生グツト乗気になつて早やむこ君に成済なりすましたやうな気で毎日入浸いりびたつてゐる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
かくし居たりける然るに其頃芝明神前に藤重ふぢしげと云る淨瑠璃語じやうるりかたりの女有しが容貌かほかたち衆人にすぐれ心やさしき者なる故弟子でしも多く日々ひゞ稽古けいこたゆる隙なく繁昌しける此所へ吾助は不※ふと稽古せんものと這入込はひりこみたるが好色者かうしよくものくせなれば藤重ふぢしげ嬋娟あてやかなる姿にまよひ夫よりは稽古に事せ日夜入浸いりびたりに行きけるが流石さすがに云寄便よるたよりもなく空敷むなしく月日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一月二月ひとつきふたつき小野田の住込んでいたたなでは、毎日のように入浸いりびたっていたお島は、平和の攪乱者こうらんしゃか何ぞのように忌嫌いみきらわれ、不謹慎な口の利き方や、やりっぱなしな日常生活の不検束ふしだらさが
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「いけませんよ。入浸いりびたりになっちゃ困りますよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)