克明こくめい)” の例文
平次は克明こくめいに二度目の調べを始めたのです。その後から胡散うさんの鼻をふくらませて、弁慶の小助がついて来たことは言うまでもありません。
四十格好の克明こくめいらしい内儀かみさんがわが事のように金盥かなだらいに水を移して持って来てくれた。葉子はそれで白粉気おしろいけのない顔を思う存分に冷やした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
(お春の癖で、こう云う話をする時は一々その人の口調を真似て、当時の会話を克明こくめいに再演して見せるのである)
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その会場はいつも満員で、市民はせめてその顔なりと一目見ようと、門外にたたずむもの何千人をもってかぞえられた。富士男が克明こくめいにしるした遭難日記が出版された。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
みな佐賀のほこり、御用焼ごようやきの色鍋島いろなべしま克明こくめいに制作している、善良なる細工人さいくにんばかりの山だ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其内そのうちこしはさんだ、煮染にしめたやうな、なへ/\の手拭てぬぐひいて克明こくめいきざんだひたひしはあせいて、親仁おやぢこれしといふ気組きぐみふたゝまへまはつたが、きうつて貧乏動びんぼうゆるぎもしないので
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
克明こくめいに頭を下げて頼むので、番頭は飛んだ厄介者やっかいものと言わぬばかりに小僧にあごを向け
田鍋のやつは、勘は鈍いが、あれで相当克明こくめいでねばり強いから、そのうちにはきっと一件を感づくに違いない。そうなったら……ああ、そうなったら万事休ばんじきゅうすだ。わしの最後の一線が崩れ去るのだ。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
克明こくめいたましひのかたわれが
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「三月四日の月といふ字を見るが宜い、本文のは克明こくめいに二本の横棒を引つ張つてゐるが、日附の方はチヨンチヨンと點を二つ續けて打つて居るぜ」
彼は、それらの検見帳けみちょうから、領下の戸帳こちょう蓄備倉ちくびそうひょう年貢控ねんぐひかえなどを克明こくめいに見終っての後。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たい医者殿いしやどののつけやうがなくつて、おとろへをいひてに一にちばしにしたのぢやが三つと、あにのこして、克明こくめい父親てゝおや股引もゝひきひざでずつて、あとさがりに玄関げんくわんから土間どま
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでも女のことで、荒らかに封を切るということはなく、楊枝ようじの先で克明こくめいに封じ目をほどいて、手紙の中の文言もんごんを読んでみると、それがいよいよいやな感じを起させてしまいました。
最初にそれへ気がついたのが三位卿で、ここの天険に軍船の配置をする場合のため、克明こくめいに鳴門一帯を測量した時、水陣図のおぼえ書に、その渦路うずみちの秘密も書き加えておいた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その内腰にはさんだ、煮染にしめたような、なえなえの手拭てぬぐいを抜いて克明こくめいに刻んだ額のしわの汗をいて、親仁おやじはこれでよしという気組きぐみ、再び前へ廻ったが、もとによって貧乏動びんぼうゆるぎもしないので
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼のうちは克明こくめいに働いて、夜分になると戸を締め切っておいて盗みに出かけます。
そのお團子を並べたやうに四十餘りの丸を書いて、それに八五郎一流のまづい假名文字で、克明こくめいに名前を書き入れたのを見せながら、大して極り惡がりもせずに、八五郎はかういふのです。
お玉は大事そうに三味線を抱えて、草履を克明こくめいに脱ぎ並べて、その席へ身を載せて、上の方へお辞儀をして、袋をはずして中から三味線を取り出しにかかる模様が慣れたものであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちょいと見ると、いやどれもこれも克明こくめいで分別のありそうな顔をして。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竜之助は冷然として、その書き終るを見ていると、壮士はその紙を持って前後を見廻したが、かたえに大きな松の樹がある、小柄こづかを抜いてその一端を突きさして、あとのすみ克明こくめい松脂まつやにで押える。
一寸ちよいとると、いやどれもこれも克明こくめいで、分別ふんべつのありさうなかほをして。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手のつけようがなくって身のおとろえをいい立てに一日延ばしにしたのじゃが三日つと、兄を残して、克明こくめい父親てておやは股引のひざでずって、あとさがりに玄関から土間へ、草鞋わらじ穿いてまたつちに手をついて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)