不揃ふぞろ)” の例文
これが東京などの大都会に、大火の多かった原因の一つで、そうしてまた屋根の三角が、いよいよ不揃ふぞろいなものになるたねでもあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
近くの教会堂では、十七世紀の古い鐘が、不揃ふぞろいな恐ろしく調子はずれな声で、十五分ごとに、単調な賛美歌の断片を歌っていた。
不揃ふぞろいな絵の道具、いじけたような安物の木机、角の欠けた茶箪笥ちゃだんす火桶ひおけ、炭取り——家具といえるのはそれで全部だ。
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私が沈む少し前には、不揃ふぞろいな大きな字だったが、それでもちアんと読める字を書いているのに私は吃驚びっくりした。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
やぶから棒を突き出したようにしりもったてて声の調子も不揃ふぞろいに、辛くも胸にあることを額やらわきの下の汗とともに絞り出せば、上人おもわず笑いを催され
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
みんなおつかげばかしいてたのぱなしてんだからあし不揃ふぞろひだなどうしても、それにさかきふだつちと倒旋毛さかさつむじおつてるやうだから畜生ちきしやうなんぼにもあしねえな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
フォークやナイフが不揃ふぞろいであったり足りなかったりして、時々カタリナは手づかみで物を食べていたが、そんなところを偶〻たまたま客に見付けられるとな顔をするので
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
終日、肥汲こえくみ車や荷馬車のゴトゴトとひびいている退屈な町、馬糞ばふんに汚れた一本筋の町を、一日に二三度は往復した。町並はひどく不揃ふぞろいで、ここでも不景気がき出しにあらわれていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
それにこれ下着が羊羹色ようかんいろの黒竜門、ゆきたけの不揃ふぞろいなところが自慢でげして、下がこうごうぎと長くて、上へ参るにつれてだんだんに短く、上着は五寸も詰った、もえるのツンツルテン
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青くこごってんだ東北特有の初夏の空の下に町家はくろずんで、不揃ふぞろいにならんでいた。ひさしを長く突出つきだした低いがっしりした二階家では窓から座敷ざしきに積まれているらしいまゆの山のさきが白くのぞかれた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大急ぎでひろげてみると、そこには濃淡不揃ふぞろいな乱暴な文字で
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前後不揃ふぞろいのことを申し立てて、予をあざむこうでな。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのような大小不揃ふぞろいの物があるわけはないから、すなわちこれも又聞またぎきの場合の掛値かけねであったことを、想像しえられるのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
沖の弁天から南の海べりまで続くひとすじの道があって、ひどくゆがんだ松の並木が不揃ふぞろいにずっと断続している。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほっそりとした不揃ふぞろいな顔立をし、灰色がかった金髪をもち、背が高く、優美で、取り澄さない自然の首つきをしていたが——親切そうな揶揄やゆ的な眼で彼を見守っていた。
伸びるいきおい不揃ふぞろひなところが自由で、おさなく、愛らしかつた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
二十歳から二十五歳くらいの間の青年で、小柄で、やや前かがみになり、虚弱そうで、無髯むぜんの悩ましげな顔、くり色の髪、不揃ふぞろいな繊細な顔だち、一種の不均衡さをもっていた。