鼻先はなさき)” の例文
今朝懇意こんいの車屋がデカの死骸しがいを連れて来た。死骸は冷たくなって、少し眼をあいて居たが、一点の血痕けっこんもなく、唯鼻先はなさきに土がついて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まもなく、軽舸はしけの用意ができると、病人どうような伊那丸を、それへうつして、まえの三人もともに乗りこみ、すぐ鼻先はなさきの小島へむかってこぎだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めし屋ののれんの中からは、味噌汁みそしるやごはんかおりがうえきった清造の鼻先はなさきに、しみつくようににおってきました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
あのときの、つめたい地面じめんただよちかけたの、なつかしいかおりが、いまも鼻先はなさきでするようです。かえると、おばあさんも、まだ達者たっしゃだったから、すぐなべへれて、にかけました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういいながら、砲弾は、私の鼻先はなさきかすめてそろそろと向うへ、宙を飛んでいった。
で、一つの入江の浪打際を過ぎて丘を越ゆると思いもかけぬ鼻先はなさきに碇泊中の帆柱がゆらりゆらりと揺れていると云った具合だ。宿しゅく出外ではずれた所に御乗浜と呼ばれた大きな入江がある。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
はつとくと、まへ兵士へいし背嚢はいなう鼻先はなさきがくつついてゐたりした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
といいながら、ひょっこりおかしらのおに鼻先はなさきしました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
少年しょうねんは、いまにも、かみなりが、あたまうえちそうなので、浜辺はまべに、げてあった、ふねしたはらばいになって、二人ふたりのけんかをているうちに、二人ふたりは、いわ鼻先はなさきから、ったまま
お母さんのかんざし (新字新仮名) / 小川未明(著)
云い終って、一寸つばいたと思うと、それはドングリが一つ鼻先はなさきに落ちたのであった。夢見男は吾に復えった。そうして唯いつもの通り廻る水車と、小春日に影も動かず眠った様な樫の木とを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こう一は、あたまに、いろんなことをかんがえながら、はらっぱのなかに、まって、えびを鼻先はなさきへぶらさげてにおいをかいでみました。まだ、うみおよいでいた時分じぶんの、いそのこっていました。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
おじいさんは、鼻先はなさきから、眼鏡めがねをすべりちそうにして、うなずきながら
窓の内と外 (新字新仮名) / 小川未明(著)