ぼら)” の例文
明けがたには、ひとさかぼらが釣れる。すこし陽が出てからは、きす釣り舟が、笹の葉をいたように、釣竿をならべて、糸をあげていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余の郷里にて小鯛こだいあじぼらなど海魚を用ゐるは海国の故なり。これらは一夜圧して置けばなるるにより一夜鮓ともいふべくや。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
たまにぼららしいのが水の上に跳ねるのを見れば、魚類だけは目覺めてゐるらしい。明るい靜かな・華やかな海と空だ。
ぼらの煮附けとポーランド・ソースが出た。サモイレンコは二人の皿に一尾ずつ分けて、自分でソースを掛けてやった。二分ほどは沈黙のうちに過ぎた。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ついでにぼらと改名しろなんて、何か高慢な口をきく度に、番ごとめられておいでじゃないか。何でも、こわいか、辛いかしてきっと沖で泣いたんだよ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これから次第に秋深み、黒鯛の当歳子とぼらの釣季に入れば、銀座の石畳の道を彷彿とさせて壮観であるそうだ。
姫柚子の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
寒鮒に始まって鯊釣り、鱚釣り、ぼら、海津など、釣りと網とは花に次いでの江戸ッ児の遊楽だ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
紀州の沖や土佐の沖ぢや、一網に何萬とぼらが入つたのぶりが捕れたのと云ふけれど、この邊の内海ぢや魚の種が年々盡きるばかりだから、次第に村同士で漁場の悶着が激しうなるんぢや。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
そら、お前さんがぼらを一尾、きすを二尾、そうだ鰹の小さいのを一尾、取りに来たでしょう。こちらから届けますというのに、いや急ぐからと云ってお前さんがすぐに持って行ったでしょう
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「去年山村耕花がやつて来た時にもぼらばかしはされたと聞いたつけが……」
「ほら、まるでぼらを焼くのと同じことだ。脂がプスプスいつてゐる」
小さな村 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
老妻おいづまとわかちてべしぼらの味ひととせあまり忘れゐし味
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
やまべは網してとり、ぼらは糸垂れてとる
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「このごろぼら丸太まるたが食うそうだ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
織田軍の船手方、九鬼家の家臣といえば、みな潮焦しおやけのした顔にぼらのような眼を持って、歯ばかり白いさむらいばかり多い。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまにぼららしいのが水の上に跳ねるのを見れば、魚類だけは目覚めているらしい。明るい静かな・華やかな海と空だ。
すずきねる、ぼらは飛ぶ。とんと類のないおもむきのある家じゃ。ところが、時々崖裏の石垣から、かわうそ這込はいこんで、板廊下やかわやいたあかりを消して、悪戯いたずらをするげに言います。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紀州の沖や土佐の沖じゃ、一網に何万とぼらが入ったのぶりが捕れたのと言うけれどこの辺の内海じゃ魚の種が年年尽きるばかりだから、しだいに村同士で漁場の悶着もんちゃくが激しゅうなるんじゃ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
誰彼なしに金を用立てる、療治をしてやる、婚礼の橋渡しをしてやる、喧嘩の仲裁をしてやる、ピクニックの音頭取りになって、羊肉の串焼きをする、とても旨いぼらのスープをこしらえる。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぼら丸太まるた蒲鉾かまぼこが釣れる」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しほのさゝない中川筋なかがはすぢへ、おびたゞしいぼらあがつたとふ。……横濱よこはまでは、まち小溝こみぞいわしすくへたとく。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふなばたから二どめのなみがしらがきて、ぼらを海中に巻きかえそうとしたが、海賊の手下どもはこれこそ蛮流幻術ばんりゅうげんじゅつをやる山賊の変身と、よってたかって、手づかみにしようときそったが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しょうちしました。だが、そうとするといまのぼらはいったいどうしたってんだろう?」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫女巌めおといわへ行くものの、通りがかりの街道から、この模様をながめたら、それも名所の数には洩れまい。ふなばたぼらは飛ばないでも、へさきに蒼い潮の鱗。船は波に、海に浮べたかと思われる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……と送って出しなの、肩を叩こうとして、のびた腰に、ポンと土間に反った新しい仕込みのぼらと、比目魚ひらめのあるのを、うっかりまたいで、おびえたようなはぎ白く、莞爾にっこりとした女が見える。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目の下、二尺もあるぼらだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まったく、うおじゃぼら面色かおつきが瓜二つだよ。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)