魯鈍ろどん)” の例文
正直で魯鈍ろどんで、いささか惚れっぽくて、足の達者な八五郎は、銭形平次にとっては申分のない相手でもあり、助手でもあったのである。
銭形平次打明け話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
が、俊寛は屈しなかった。三日ばかりも、根よく続けて試みているうちに、魯鈍ろどんで、いちばん不幸な鰻が、俊寛の手にかかる。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
最後の丁禹良はやや魯鈍ろどんに近い人間で、特に取立てて語るほどの事もなかったが、いわゆる馬鹿正直のたぐいで、これも忠実勤勉であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は、本名を曾参そうしんといって、一見魯鈍ろどんではあるが、反省力の強い青年で、門人中で孔子に最も嘱目されている一人である。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
また、あの才気もない魯鈍ろどんな人物故、帰国したところで、父上や叔父御たちで、どうにでもなろうと、それも、多寡をくくっていた一因でしたが
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へい、私の名は鴫丸しぎまるというんで」こう答えたのは片耳のない、大兵だが魯鈍ろどんらしい男であった。年格好かっこうは二人ながら、二十七、八歳と思われる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうした八雲の心理は、我が子の魯鈍ろどんに幻滅を感じてる親が、他人から、その愛児の悪評を聞いて怒る心理と、よく似たものであったと思われる。
六三 小国をぐにの三浦某といふは村一の金持なり。今より二、三代前の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯鈍ろどんなりき。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
これをその筋の人に言わせたら、規則の何たるをわきまえない無知と魯鈍ろどんとから、村民自ら犯したことであって、さらに寛恕かんじょすべきでないとされたであろう。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
驢馬は魯鈍ろどんな動物で、「愚か者」の代名詞に使われます。それでも疲れたイエス様の足を休めるため従順に御用に立てば、神の国のため大なる役割を果たす。
外来ヨークシャイヤでも又黒いバアクシャイヤでも豚は決して自分が魯鈍ろどんだとか、怠惰たいだだとかは考えない。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのほかにも、私はほとんどそれが天命でもあるかのように、お慶をいびった。いまでも、多少はそうであるが、私には無智な魯鈍ろどんの者は、とても堪忍かんにんできぬのだ。
黄金風景 (新字新仮名) / 太宰治(著)
若いほうは動物的な、魯鈍ろどん狡猾こうかつの混りあった肉の厚い無表情な顔で、鼻がぺしゃんと潰れていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無感動な、沈鬱な物腰。酷使されて、どんなことにも感じなくなった、家畜の、あの、魯鈍ろどんなようすをしていた。はだけられた胸の上に、いくつも光った横縞があった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私のように持ち合わした力の使いようを知らなかった人間はない。私の周囲のものは私を一個の小心な、魯鈍ろどんな、仕事の出来ない、憐れむべき男と見る外を知らなかった。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
魯鈍ろどんなること伝六ごときものをもってしても、ふたはふさったままでいるのに、外には今なかからあふれ出でもしたような、お湯の流れ伝わっているそんな化けぶろおけは
さうした讀書から自然に覺えた探偵ごつこ、自分の友達の多少魯鈍ろどんなのを兇賊きようぞくに仕立てたりして、それをわら繩で縛り上げる敏腕な探偵は、私の少年時代のある時の姿だつたから……。
探偵小説の魅力 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
私の住家は昔の維摩ゆいま居士の方丈の庵室を真似て建てたのであるが、自分の行いや信仰の上に於ては一番魯鈍ろどんだったと言われている仏弟子の周利槃特しゅりはんどくのものにすら劣っているではないか。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
魯鈍ろどん無情のからすの声が、道路傍の住家の屋根の上に明け方の薄霧うすぎりほころばして過ぎた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの魯鈍ろどんな機械に比べて「ベルリーン」に映出される本物の機械の美しさは、実に見ていて胸がすくようである。同じ意味でソビエト映画「トルクシヴ」に現われる紡績機械もおもしろい。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
碧梧桐「趣味の遺伝」を評して冗長魯鈍ろどんとか何とか申され候。魯鈍には少々応え申候。大将はいつ頃出発致候や。あれは二年間日本中を巡廻する計画の由なれどきっと中途でいやになり候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
正面から視た時は、怜悧そうに引緊っていたある青年の顔が側面から見るとまるで魯鈍ろどんさを暴露し力弱く見えた。——伸子はふと平生あまり見たことのない自分の横顔について微かな不安を感じた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
声をかけたのは番頭の喜助、四十五六のよくふとった、——何となく魯鈍ろどんそうに見えるうちにも、したたかな駆引を用意しているらしい男です。
六三 小国おぐにの三浦某というは村一の金持かねもちなり。今より二三代前の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯鈍ろどんなりき。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
粗野で魯鈍ろどんではあるが、しかし朴直ぼくちょくな兼吉の目からは、百姓らしい涙がほろりとそのひざの上に落ちた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、魯鈍ろどんに生れたわしなどは、御主人の余りな精進に、むしろ胆がちぢまってしまう。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私達は自分の言葉故に人の前に高慢となり、卑屈となり、狡智こうちとなり、魯鈍ろどんとなる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
年は二十七、八で、片耳のない大男で、魯鈍ろどんそうにズングリと肥えていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
母の危篤きとくに駈けつけるときには、こんな思いであろうか。私は、魯鈍ろどんだ。私は、愚昧ぐまいだ。私は、めくらだ。笑え、笑え。私は、私は、没落だ。なにも、わからない。渾沌のかたまりだ。ぬるま湯だ。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
魯鈍ろどんで忠實で、誰にか言ひつけられさへすれば、どんないやな仕事でも、辛棒強くやり遂げさうな少年です。
視覚は無能になり触覚は魯鈍ろどんになり、脳の中枢ちゅうすうはやがて支配する神経に気をつかう必要がなくなって、ただ頭のなかに詰まっている不用物体となってどろんとしておるだけのようです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ場所ばかりいている島吉の魯鈍ろどんさには、さすがの平次もおどろいた様子です。
生憎あいにくと、その殊勲をあげた物見は、この近郷に生れた樵夫きこりあがりで、魯鈍ろどんと実直だけを持った男だったため、弾正の質問に対して答えるところがすこぶるあいまいで要領を得ないものだった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はこの造化の傑作を臺無しにした冒涜的ばうとくてきな男の、ニキビだらけな顏を憎々しく見やりました。まだ二十二三でせう。魯鈍ろどんで脂切つて、何とも言ひやうのない無氣味なところのある若者です。
魯鈍ろどん、魯鈍、そちはこんなにくわしく話されてもまだ感づかないのか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はこの造化ぞうかの傑作を台無しにした冒涜ぼうとく的な男の、ニキビだらけな顔を憎々しく見やりました。まだ二十二三でしょう。魯鈍ろどんで脂切って、何ともいいようのない不気味なところのある若者です。
魯鈍ろどんな兆候は以前からのものではあったが、善意に、むしろ大器のように、こっちで勝手に解釈していたことかもわからぬ。と思ってみると、高氏のうすあばたまでが急に白々と馬鹿げて見えた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わからないと申すか、はてさて、魯鈍ろどんな頭よな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亭主は自分の魯鈍ろどんに感心した。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)