驚愕きやうがく)” の例文
卯平うへいくぼんだしかめるやうにした。勘次かんじ放心うつかりした自分じぶんふところものうばはれたほど驚愕きやうがく不快ふくわいとのもつ卯平うへいとおつたとをた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
将門にひ立てられた官人連は都へ上る、諸国よりはくしの歯をひくが如く注進がある。京師では驚愕きやうがくと憂慮と、応変の処置の手配てくばりとに沸立わきたつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私の意識はやうやく家族の身上に移つて行つた。不安と驚愕きやうがくとが次第に私の心を領するやうになつて来る。私は眠薬を服してベットの上に身をよこたへた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
段々聞くと、その不思議なことをする僧は、かの女の知つてゐる慈海らしいので、いよ/\驚愕きやうがくの念を深くした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
巨砲もて打たれたらん如き驚愕きやうがくを、梅子はじつと制しつ「——左様さうですか——誰にお聴きなすつて——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
五位は、寝起きの眼をこすりながら、殆ど周章に近い驚愕きやうがくに襲はれて、呆然ばうぜんと、周囲を見廻した。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
苦痛と好奇と驚愕きやうがくと、いろ/\の感情がその眼の中に動きます。
僕は予期しない父の此の行為に驚愕きやうがくするいとまもなく、父はあたふたと著物きものを著換へて出て行つてしまつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
かれやうやくにして柄杓ひしやくはなつてふたゝ茶釜ちやがまふたをしたときにはかにぼうつとつたほのほこゑいた。かれおもはずうしろとき與吉よきち驚愕きやうがくからはつせられたごゑみゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「先生——」驚愕きやうがく怪訝けげんとに心騒げる大和の声はいたくも調子狂ひたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その七八年の間将棋の駒を無くさずにゐたのは私にはおもしろい。私はここに寄寓きぐうしておのづと大地震に対する驚愕きやうがくの念を静めて行かうと思つたのであつた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
勘次かんじいへには突然とつぜんどう驚愕きやうがくせしめた事件じけんおこつた。それはこともなくんでさうしてあまりに滑稽こつけい分子ぶんしまじへてた。與吉よきち夕方ゆふがたかみつゝんだ食鹽しよくえんひとぬすんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのうち草原、灌木帯が過ぎてしまつて、熔巌原に移行して行つたが、黒光したこの熔巌は幾里にもわたつてなだれ落ちてゐるので、旅人は車窓から首をのばして驚愕きやうがくしてそれを見て居る。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)