馬酔木あしび)” の例文
旧字:馬醉木
「春の奈良へいつて、馬酔木あしびの花ざかりを見ようとおもつて、途中、木曾路をまはつてきたら、おもひがけず吹雪に遭ひました。……」
辛夷の花 (新字旧仮名) / 堀辰雄(著)
ところがこれらの作に歌はれた馬酔木あしびは、今の所謂あしびではないといふ疑ひが昔からある。早く既に契冲がその疑ひを出した。
あしびの花 (新字新仮名) / 土田杏村(著)
暗黒の不安を追い払うためには、はねてぱちぱちと音を立てるような、豆がら、馬酔木あしびの類をまじえてたく必要さえ認められた。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
厳石いそうへに生ふる馬酔木あしびを」と言はれたので、春がけて、夏に入りかけた頃だと知つた。おれのむくろは、もう半分融け出した頃だつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
いつのまにか私たちの家の狭い庭には、薔薇ばらが最初の黄色いつぼみをつけた。馬酔木あしびもさかんな香気を放つようになった。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こう思って林の奥を目ざし、敵と別れて走り込み、馬酔木あしびの大藪を背後にし、ドッカと草に坐ったが、鎧通しを引き抜くと、左の脇腹へ突き立てた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桜樹の尽きたあたりには、まだ軟かい芽を出したばかりのかえでかしがあり、円く刈り込んだ馬酔木あしびがある。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雪のない所は地を這ったねじれた灌木が満ち、一面に馬酔木あしびの花のような小粒な花の袋をつけていた。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
馬酔木あしび」時代には、雑誌の編集はほとんど先生一人の仕事であった。それに対しては非常に熱心でいられたのにかかわらず、発行の遅れないときはないほどであった。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
「見まくり吾がする君もあらなくに奈何なにしか来けむ馬疲るるに」(巻二・一六四)、「磯の上に生ふる馬酔木あしび手折たをらめど見すべき君がありといはなくに」(同・一六六)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
俗に馬酔木あしびとかアセモとかいう灌木の葉から精製したもので、人間にませると朝鮮人参と同様の効果があるが、錠剤にして馬に与えるときっかり二十分位で気が荒くなって
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何の木であろうとその時思ったのであったが、いま帰り路に近づいて見ると、どうもその葉が馬酔木あしびに似ている。然し、その幹は違っている様にも見え、またそうらしくも思われる。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
伸子は、ウメ子の手紙にかかれている高畠という町のあたりは知らなかったが、雨の日の奈良公園とそこに白い花房をたれて咲いていた馬酔木あしびの茂みは、まざまざとして記憶にあった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
近頃は時々鳥兜とりかぶとを用いるが、その毒性は詳しいことがわかっているわけではなく、馬酔木あしびも時々用いたが、そんな大した毒性はないと植物学者から聴いていささかがっかりしたところである。
銭形平次打明け話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
落葉がいくらとなしに積って腐蝕した山の地面は歩むとへんにボコボコとした軟らかい足さはりがした。そして役にも立たぬ馬酔木あしび躑躅つつじがしょんぼり残された山一杯に木屑こっぱが穢なく散乱した。
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
この水のみなもと遠くほのぼのし馬酔木あしびの花も咲きそめぬらむ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「春の奈良へいって、馬酔木あしびの花ざかりを見ようとおもって、途中、木曾路をまわってきたら、おもいがけず吹雪に遭いました。……」
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
馬酔木あしびをベリベリ柴と呼び、松毬まつかさをチチリという類は、はじめは幼い者を喜ばせるためとしても、今は既に親々の方言になっている。
馬酔木あしびの古木は春日社の一の鳥居から博物館あたりへかけての広つぱに見られる。が、この辺のものは大抵孤立した樹叢だ。
あしびの花 (新字新仮名) / 土田杏村(著)
巌岩いその上に生ふる馬酔木あしびを」と聞えたので、ふと、冬が過ぎて、春もけ初めた頃だと知った。おれのむくろが、もう半分融け出した時分だった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
馬酔木あしび」がはじめて発刊せられたのは明治三十六年のことであった。それ以前から根岸派ねぎしはの歌に親しんでいた私はこれを嬉しく思いながら、先生のことを想像していた。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
馬酔木あしびが丈余のくさむらをなしてい、その中ほどの草の原に、襤褸ぼろと垢とのみしらみとに包まれている不具かたわの流浪者が、八人がところかたまって、うごめきながら話しあっている様子は
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
池水いけみづかげさへえてきにほふ馬酔木あしびはなそで扱入こきれな 〔巻二十・四五一二〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
だから一刻も早くこのような妙な来客をっ払ってしまいたい。そうして急いでの「馬酔木あしびの毒素」の定量分析に取りかかりたいというのが、この時の私の何よりの願望であった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
水の辺の馬酔木あしびの若木小さけれどほのかに群れて花つけぬらし
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
公園の藤、馬酔木あしび、ホテルにかえる道
傍らに花さいている馬酔木あしびよりも低いくらいの門、誰のしわざか仏たちのまえに供えてあった椿の花、堂裏の七本の大きな柿の木
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「山もせにさける馬酔木あしび」と叙景せられたりするのを見れば、その花は「賑はしく麗しく且甚だ多く連らなりてさく花」
あしびの花 (新字新仮名) / 土田杏村(著)
下草に交って、馬酔木あしびが雪のように咲いても、花めいた心を、誰に起させることもなしに、過ぎるのがあわれである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
いそうへふる馬酔木あしび手折たをらめどすべききみがありとはなくに 〔巻二・一六六〕 同
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と、早瀬に悪あがきをし、蝮に脅されて胆を冷やし、遠く離れた馬酔木あしびくさむらの、裾に、膝を抱いてこっちを眺めていた男が、あおのけざまに地に仆れ、手足を宙に泳がせていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なぎの葉にふる雨見ればしらしらとふふ馬酔木あしびも夜の目には見ゆ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「……ちょっと待ち給え……それは馬酔木あしびの毒でしょう」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この春、僕はまえから一種の憧れをもっていた馬酔木あしびの花を大和路のいたるところで見ることができた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其間に、藤の短い花房が、白く又紫に垂れて、老い木の幹の高さを切なく寂しく見せる。下草に交つて馬酔木あしびが雪のやうに咲いても、花めいた心を、誰に起させることもなしに過ぎるあはれさだ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
馬酔木あしび咲く春日の宮のまゐ蝙蝠傘かうもり催合もやひ子ら日暮なり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
塔が島馬酔木あしびしみ立ち岩床に暁かけて凝る垂氷たるひこれ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
馬酔木あしびの にほへる子を
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
橿かし馬酔木あしび、枝さし蔽ひ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
馬酔木あしびの にほへる子を
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しみみ立つ馬酔木あしび、黒木
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)