顎髯あごひげ)” の例文
木魚のおじいさんが吃驚びっくりして、医の方で自分の先生のような木下さんという、旗本上りの顎髯あごひげの長いお爺さんを連れて来て手術をした。
「さればさ、さればこの件だが」不識先生は、顎髯あごひげをしごいて云った、「儂がみたところ、家主吾助に憑いておるのは天一坊であるな」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
祖母は、誰にでもすこし気が変だと思われていました。幾つぐらいでしたろう? 顔に千三十八のしわがあって、顎髯あごひげが生えていました。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
アンリ四世のような見事な顎髯あごひげをはやした五十二三の紳士に紹介されたことがあったので、もしやと思って、そのほうをさがして見る気になった。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
またきのうの熊みたいな顎髯あごひげの持主かと期していると、思いのほかな使者と、その使者の携えている白芍薬の枝を見て
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今大和の法隆寺村に隠棲してゐる北畠治房だん狂人染きちがひじみた眼の色から顎髯あごひげの長く胸元に垂れかゝつた恰好を、ある洋画家がひどめ立てておいて
控間にいた秘書らしい背広の男に案内されて、彼のわきに近づく伸子を見ると、藤堂駿平は、鼻眼鏡をかけ、くさびがたの顎髯あごひげをもった顔をふりむけて
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一間に閉じこもって破れて落ちる文殻ふみがらを綴り合わせているどころの話ではなく、彼は毎日のように顎髯あごひげをしごき乍ら、赤耀館へ憎々しい姿を現わしました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蒲留仙 五十前後のせてむさくるしいなりをしている詩人、胡麻塩ごましおの長いまばらな顎髯あごひげを生やしている。
破れた唐紙の陰には、大黒頭巾を着た爺さんが、火鉢を抱えこんで、人形のように坐っている。真っ白い長い顎髯あごひげは、豆腐屋の爺さんには洒落しゃれすぎたものである。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
たしかシュテッヘは、黒髪ブルネットで、細い唇よりの髭と、三角の顎髯あごひげをつけておりましたね。そして、だいたいの眼鼻立ちや輪廓が、艇長と大差なかったのではありませんか
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
尊は彼の言葉を聞くと、思いのほか真面目まじめな調子になって、白い顎髯あごひげひねりながら
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顎髯あごひげの伸びた蒼白い顔は、明い春先になると、一層貧相らしくみえた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ピンとはねた小さな口髭くちひげ、学者臭く三角に刈った濃い顎髯あごひげ、何物をも見透すわしのように鋭い目には、黒鼈甲縁くろべっこうぶちのロイド眼鏡めがねをかけ、大柄なガッシリした身体を、折目正しい夏のモーニングに包んで
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寮長は顎髯あごひげを上に向け、南画のなかの人物のやうに背中を丸くして、一心に凝視みつめてゐた。強度の近眼でよく見ようとする努力のために、今年の芽を可愛かはいいてゐる花床を知らず/\踏んでゐた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
少々胡麻鹽になつた顎髯あごひげをしごき乍ら、唐天竺の都々逸なんかそゝつて通つた秋岳先生が、妾宅通ひも年のせゐで段々人目に立つやうになつたし、二つ世帶をまかなつては、諸掛りも大變だといふので
えたいも知れない老人は、顎髯あごひげをしごいて大阪屋を顧みた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
悲しみ泣けり、譬ふれば顎髯あごひげ長き獅子王の
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
顎髯あごひげ生やし
赤錆あかさびたような白髪の、そして同色の顎髯あごひげを伸ばした、常時みずばなを垂らしている老人を伴れて来て、自分の家に泊めて
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黒い顎髯あごひげを蓄え、肩の幅、胸幅も、常人よりずっと広くて、背も高い。革足袋かわたびに草履穿きのその足の運びが、いかにも確かに大地を踏んでいるというように見えて立派である。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧が岩をつとうてあがって来た。顔の大きな男はその方に注意しながら顎髯あごひげの男に云った。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
頭は三寸程も伸びた毛をモジャモジャと縮らせ、ピンとはねた口髭、三角型に刈込んだ顎髯あごひげ、それがずっと目の下まで密生して、顔の肌をうずめ尽している。その毛塊もうかいの真中に鼈甲縁べっこうぶちの近眼鏡がある。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
栗のイガを割ったように、喜左衛門は顎髯あごひげの間から、赤い口を見せて、笑ってしまった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病弱になってから生やした顎髯あごひげが殆んど白く、骨立った頬やするどい眼のあたりに非凡な人のひらめきが感じられるけれども、全体としては憔悴しょうすいの色がかなり強くあらわれていた。
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とさもおかしくてたまらないと云うようなあざけり笑いをする者もあるのです、私はしからん奴だと思って、見ると赤い帽子をた、顎髯あごひげの白い、それもまばらにえた老人が笑ってるのです
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
髪は油の光もない茶筌ちゃせんに結び、色浅黒く爛々らんらんたる眼は七万石の主公随臣を睥睨へいげいして垢じみた黒紋服に太骨の鉄扇を右手めてに握り、左の手は胸までそよぐ顎髯あごひげしごいて悠々然と座に着いた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顎髯あごひげを生やした男が独りで高声をあげた。これが頭株らしい。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どないにするもんけ、やろうよ」と、顎髯あごひげの男が云った。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
青い顎髯あごひげの剃りあとの中に、健康そうな歯並みを、奥まで見せた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顎髯あごひげをいじってから云った
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)