霊魂たましひ)” の例文
旧字:靈魂
約言すれば彼女の霊魂たましひの絶え間なき動きを、その艶麗と嬌媚との間に自然に現はすのであるから、男の心を動かし、そそり、挑発し
東西ほくろ考 (新字旧仮名) / 堀口九万一(著)
氏の事業は門下生や多くの座員によつて継続されるだらうが、氏の精神こゝろの、霊魂たましひの、そしてまた愛の跡継は松井須磨子でなくてはならない。
ぢつとこみあげてくる哀傷の一念を抑えて、剃り立ての真蒼な面の光沢を冷々ひえ/″\と労ると、暑い夏の日にもしんみりと霊魂たましひの冷たさが身に染みる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それ、こゝに居なさるのが瀬川さんの子息むすこさんだ。御詑おわびをしな。御詑をしな。われ(汝)のやうな畜生だつて、万更霊魂たましひの無えものでも有るめえ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
看るからに万物生動の意はわが霊魂たましひを掩へる迷妄まよひの雲をかき払ひて我身さながら神の光のなかにかけりゆくここちす。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それが官位の棒で押へられ、黄金かねくさりしばられて、恐ろしい一夜を過ごした後は、泣いてもワメいても最早もう取り返へしは付かず、女性をんな霊魂たましひを引ツ裂れた自暴女あばずれもの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いけねえ、おれはもう自分で自分をどうすることも出来ない。いよいよ何もかもに結着けりをつける時だ。霊魂たましひも消えて亡くなれ! おれは氷の穴から身投げをしておつんでしまはう!
極楽ごくらく写真しやしんを見た事もないから、これるかいかとんわからん事で、人が死んでく時はんなものか、肉体にくたい霊魂たましひはなれる時は霊魂たましひ何処どこきますか、どうもこれわからん。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
霊魂たましひの墓のしるしの。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もしか「霊魂たましひ」を銀貨一つに取り替へて呉れるものがあつたら、ホプキンスは喜んで「霊魂たましひ」を売物にしたに相違なかつた。
声——あの父の呼ぶ声は、斯の星夜の寒空を伝つて、丑松の耳の底に響いて来るかのやう。子の霊魂たましひを捜すやうな親の声は確かに聞えた。しかし其意味は。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それだのに何としたか意久地なしの霊魂たましひがまたトスカ的に滅入めいり込む、気が悄気しよげる。ポロポロと涙がこぼれる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
怒り合つたこともあらうし、うらみ合つたこともあらうが、一度死ぬと、悪い所はみんな墓場へ葬つて、善い所だけが霊魂たましひに残るものと見える、其れに死んだ人は、うらやましいことに
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
想へば恵まれたるながめなるかな、ただ要時しばし、中空にかかりぬべき虹の橋は、やがて常住の影をここにあらはすがごとし、そのかがやく欄干おばしまりて、わが霊魂たましひは無限の歓喜を受けたりき。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
行かう、どうせ、おれの霊魂たましひはどつちみち亡びてしまふんだから!
みじめなのは男で、いろんな宝石や織物でもまだれ足りないで、しまひには「名誉」や「霊魂たましひ」までも進物にしようとする。
草が戦ぐ、また意久地なしの霊魂たましひが滅入つて了ふ。悄気しよげる、ふさぐ……涙がホロホロと頬つぺたを流れる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
忘れるなといふ一生の教訓をしへの其生命いのち——あへぐやうな男性をとこ霊魂たましひの其呼吸——子の胸に流れ伝はる親の其血潮——それは父の亡くなつたと一緒にいよ/\深い震動を丑松の心に与へた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たやすく自然の美もて装はれたるさかひの薫はしきあたりに到りうべく——ここに快楽の裡に包まれたる霊魂たましひ——燃ゆるがごとき胸に響く愛国のしらべ、——ミルトンの運命と、シドニイの最期さいご
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
得て喧嘩になり勝ちなもので、伊達太夫が辛い思ひをするのに何の不思議もない。胃の腑は頭よりも、霊魂たましひよりも人間にとつて急所だからである。
なけなしの霊魂たましひづらまでが
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
結婚といふものは、不思議なもので、一度で霊魂たましひまで黒焦くろこげにしてこり/\するのもあれば、性懲しやうこりもなく幾度いくたびか相手をへて平気でゐるのもある。
種子たねはこれ霊魂たましひの粋
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
自分の霊魂たましひと自分の女房かないを信じない人も、懐中時計だけは信ずる。その懐中時計をすらお上手なしに報告出来ない人は、世にも不幸ふしあはせな技巧家である。
亡くなつた足立通衛みちゑ氏の告別式が大阪青年会館で行はれた時、とむらひ演説をした宮川経輝つねてる氏は、霊魂たましひの一手販売人のやうな口風くちぶりで、名代なだいの雄弁をふるつて
可憎あひにく日本では「霊魂たましひ」の相場が安過ぎるので詮事無せうことなしに自分達が本国から送つて貰ふ筈の月給を抵当に、行きつけの店から借り出すものが多かつたが
呉々くれ/″\も言つておくが、その晩暖炉ストーヴ周囲まはりに立つてゐた弁護士は五六人あつた。そしてたつた一人リンカンだけが霊魂たましひを焼栗のやうに黒焦にしないで済んだ。
人間は霊魂たましひさへあつたら、女に思はれもするし、世渡りも結構出来るものだと思つてゐたらしいが、氏自身が色々な会社事業に関係して、たんまり懐中ふところが暖まつて来ると
そろ/\人生観も変つて来て、人は霊魂たましひばかりで生きるものぢやないと思ひ出したらしい。