達引たてひ)” の例文
「果しまなこになると、お前でも少しは怖いよ。次第によつては、達引たてひいてやらないものでもないが、一體いくらぐらゐ欲しいんだ」
「女中さんは買物に、おみおつけの実を仕入れるのですって。それから私がお道楽、翌日あしたは田舎料理を達引たてひこうと思って、ついでにその分も。」
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中には自分が達引たてひいて間夫を泊まらせ、明日の晩たくさん稼ぐから、今夜はタダで遊ばせてよとハッキリ言う女もあるそうな。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
長く彼様あんな事をしていても甚藏さんも詰らねえじゃアないか、兄弟分の友誼よしみで此の事はいわないと達引たてひいて呉れるなら、生涯食える様に百両遣ろうというのだ、百両貰って堅気に成りねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ、そうとも、浪人の、一人や、二人、達引たてひく分にゃあ——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「お前は卑怯ひけふだぞ——何んにも知らないお北に生命まで達引たてひかせる氣か——あの綺麗な首をさらし臺に載せて眺めるつもりか」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
すね達引たてひけ、と二三度行ったわ。何じゃねえか、一度おめえ、おう、先公、居るかいッて、景気に呼んだと思いねえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なるほどね。知っていりゃ、自分で儲けて、この俺に達引たてひいてくれるか。——有難いね、八、手前の気っぷに惚れたよ」
後はこの侘住居わびすまいに、拓と雪との二人のみ。拓は見るがごとく目を煩って、何をする便たよりもないので、うら若い身で病人を達引たてひいて、兄の留守を支えている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
好い男の若旦那を達引たてひかうといふのが、男も女も事を缺かない筈。庄司家の身上しんしやうが後ろだてになつて居るから、少しもとを入れても損のしつこはない
わたい達引たてひくからいわ、」といって蝶吉は仇気あどけない顔に極めて老実な色を装った。梓はこれを聞いて、何か気がさしたような様子であったが、わらいに紛らして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「成程ね。知つて居りや、自分で儲けて、この俺に達引たてひいてくれるか。——有難いね、八、手前の氣つぷに惚れたよ」
この店の女房が、東京ものは清潔きれいずきだからと、気を利かして、正札のついた真新しい湯沸ゆわかし達引たてひいてくれた心意気に対しても、言われた義理ではないのだけれど。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「聽いたよ、新造に達引たてひかしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉もみぢを見に行つて、財布をられて、つれの女達にお茶屋の拂ひまでして貰つたといふ話だらう」
そこへ来合せて水銭を達引たてひいて、それが御縁となりましたのが、唯今ただいまの美人です。蝶さんなんだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「聴いたよ、新造に達引たてひかしちゃよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉もみじを見に行って、財布をられて、つれの女達にお茶屋の払いまでして貰ったという話だろう」
奴なきお夏さんは、撞木しゅもくなき時の鐘。涙のない恋、戦争のない歴史、達引たてひきのない江戸児えどっこ、江戸児のない東京だ。ああ、しかし贅六ぜいろくでも可い、私は基督教キリストきょうを信じても可い。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それより私が達引たてひいて、見事に立て過さして上げるから、これをしおに足を洗っておしまいよ
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
店前みせさきへ廻ると、「いい話がある、内証だ。」といきなり女房を茶の間へ連込むと、長火鉢の向うへ坐るか坐らないに、「達引たてひけよや。」と身構えた。「ありませんわ。」きまってら。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「現に、本人がさう言ひましたよ、——十手捕繩を返上して、此處へ轉げ込んで來る氣はありませんか、見事私は達引たてひいて、八五郎親分を、くはへ楊枝やうじで過さして見せる——つてね」
新学士に是非と云って、達引たてひきそうな朋輩はないか、とうるさく尋ねるような英吉に、いやなこった、良人うちのが手をいてものを言う大切なお嬢さんを、とお蔦はただそれだけでさえ引退ひっさがる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最後にその三人みたり従姉妹いとこが、頭のもの、帯一本、指環ゆびわを一ツ売ったという、二十円あまり二月足らずの学資を達引たてひいてくれたまでで、あわれ一にんは目を煩い、一人は気が狂ったようになり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元手に稼がうなんて野郎は大嫌ひさ。その代り、あはせを受出すとか、友達の義理とか、筋の通つた話なら、遠慮することは無い。どかりと持ち込んで來るが宜い。身の皮を剥いでも達引たてひくぜ
お勝はそのために、すつかり人氣が落ちて、弟子も皆んな離れてしまひましたが、常陸屋の大身上が後ろに控へて居るので、勘當された若旦那を達引たてひいて離しませんよ。飛んだ貞女で、へツ
そら、食いねえは可いが、あかりけたそうですけれど、火屋なしの裸火。むんむと瓦斯がすのあがるやつを、店から引摺って来た、毛だらけの椅子の上へ。達引たてひかれたむき身をじわじわ、とやって
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「人の貧乏を感心する奴もねえものだ。お前に達引たてひいてくれとは言はねえ」
金子かね為替かわせで無理算段で返しましたが、はじめての客に帰りの俥まで達引たてひいた以上、情夫まぶ——情夫(苦い顔して)が一度きりいたちの道では、帳場はじめ、朋輩へ顔が立たぬ、今日来い、明日来い
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庄司の一人息子といふ肩書を振り舞はせば、唯で食はせようとする人も、達引たてひかうといふ人も、はうきくほどある筈です。それをしないのは、人が良いのか、強情なのか、平次でも見當はつきません。
てめえのためならばな、かぶとしころなッちもらない、そらよ持って行きねえで、ぽんと身体からだを投出してくれてやる場合もあります代りにゃ、あま達引たてひく時なんざ、べらんめえ、これんばかしのはしたをどうする
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)