身慄みぶる)” の例文
わたくしは光栄という気持ちが浮ぶと同時に、何か企らみのある嫌な暖味がわたくしを襲うので思わず身慄みぶるいが出そうになるのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは阿呆あはうな子で、学校へ行くのが厭だと云つて居るのですと老婢らうひはよく私に教へました。さう云はれます度に私は身慄みぶるひがしました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そして再び身慄みぶるいに襲われた。なぜならば、ろうやかに化けた女狐めぎつねのように——草の根におののいていた女は、野で見るには、余りに美しい。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「遠い昔の新婚旅行の晩、………彼が顔から近眼の眼鏡めがねはずしたのを見ると、とたんにゾウッと身慄みぶるいがしたこと」も事実であり
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いま日本全国の金持ちどもは、俺の名を聞くと身慄みぶるいしている。仮面強盗という名をきいただけで、全国の金持ちどもは慄えあがっている。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
茫然としていると、雨に打れて見る間に濡しょぼたれ、おそろしく寒くなる。身慄みぶるい一つして、クンクンと親を呼んで見るが、何処からも出て来ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三等車の中に立ちこめていた生のにおいの彼女に与えた不思議な身慄みぶるい、——それらのものが一どきによみ返った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
思ひ出しても、身慄みぶるひのするあの頃——朝から晩まで、ひつきりなしの銃声、馬の蹄の音、負傷兵をのせた担架の、窓をかすめる飛行機の翼の影……。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
僕は父親のある極悪非道な目論見もくろみを想像して身慄みぶるいした。あれは僕に顔を見られることさえ恐れているのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宿のお内儀はそこで恐ろしそうにブルブルッと身慄みぶるいした。大隅学士は唇を堅く噛んで、無言で突立つったっていたが、彼は何か重大な決心を堅めているようであった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
薄暗い中に坐っていたものの幾人かが、ブルッと身慄みぶるいをして、自分たちの肩を撫でおろしました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さすがの熊城も、その思わず眼を覆いたいような光景を想起して、ブルッと身慄みぶるいしたが、「しかし、易介は自分からこの中に入ったのだろうか。それとも犯人が……」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
神を怖れなかつたソクラテスも、女の舌だけは身慄みぶるひしてこはがつたといふが、その女のなかで一番皮肉な、啄木鳥きつつきのやうな舌を持つてゐるのが婆芸者といふ一階級である。
次にったのは二番目の娘であったが、此娘は姉様より更に臆病おくびょうなので、森林の側まで行くか行かぬに早や身慄みぶるいがし矢張り姉様と同じ様な狡猾い事を考え、一目散に家に帰って来た。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
十三枚目には、青い線が殊に身慄みぶるいしたように曲折している。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
ローラは突然身慄みぶるいをした、が声だけは慄えずに言った
水に浸されて身慄みぶるひする梢の繁り
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
とおにらみ廻しになるあなたの顔が目に見えて身慄みぶるひをすると云ふのです。または自身達のちらして置いたちりでなくても
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あの遠い昔の新婚旅行の晩、私は寝床にはいって、彼が顔から近眼の眼鏡めがねはずしたのを見ると、とたんにゾウッと身慄みぶるいがしたことを、今も明瞭めいりょうに思い出す。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と彼は身慄みぶるいして飛び退こうとしたが、はかまの裾は床から伸ばした兄の手にかたく掴まれてしまっていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふくろうおどかされた五位鷺ごいさぎだと牧瀬はいつた。歳子の襲はれさうになる恋愛的な気持ちを防ぐ本能が、かの女にぶる/\と身慄みぶるひをさして、その気持ちを振り落さした。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
殖えたところ? 夫の不思議な言葉に、あたしはまた身慄みぶるいをした。あたしをどうするつもりだろう。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さっきの若い喀血患者かっけつかんじゃのような無気味なほど大きな眼でこちらを最初誰だか分からないように見るのではないかと考えながら、そんな自身の考えに思わず身慄みぶるいをした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ああ、どこまで執念深しゅうねんぶかい男であろうとお豊は身慄みぶるいを止めることができません。
検事もブルッと身慄みぶるいして
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なんだか非常に恐ろしいことを手伝っているような気持がして、彼は思わずブルブルと身慄みぶるいした。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……まして貴方あなたのような女々めめしい男、お通は、嫌いも嫌い、身慄みぶるいの出るほど嫌いでございます
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、むす子も、かの女のした通り、一度眼を瞑って、ぱっと開いて、その花を見入った。二人に身慄みぶるいの出るほど共通な感情が流れた。むす子は、太くとおった声でいった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女にはそれが自分にこれから返されようとしかけている生の懐しい匂の前触れでもあるかのような気がされた。彼女はそう思うと、その胸苦しさも忘れ、何か不思議な身慄みぶるいを感じた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
指でわたくしの後頭部の髪の毛を掻き分けながら熱い涙をわたくしのびんに滴らしたり、それはわたくしに身慄みぶるいの出るほど嫌なものを感じさせるだけに、わたくしを途方に暮れさせる所作でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぞっと、身慄みぶるいを覚えた時、わしは一瞬いっときに世の中がいやになった。所詮、この世というものは、学識ある者も、教養のない者も、食える者も、食えない者も、一様に皆つづまるところ餓鬼がきの寄合いか。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おおッ——」と半之丞は、電気に觸れたように身慄みぶるいした。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むす子は母親の眼の前に現実を突きつけるように意地悪く云い放ちながら、握った手では母親の怯えのみゃくをみていた。かの女には独りで異国に残るむす子の悲壮な覚悟が伝わって来て身慄みぶるいが出た。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
軽い身慄みぶるいと共にその時を待った。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
宗教などという黴臭かびくさいと思われるものに関る気はないし、そうかといって、夫人のいったまこととかまごころとかいうものを突き詰めて行くのは、安道学らしくて身慄みぶるいが出るほど、怖気おぞけが振えた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かの女は身慄みぶるいが出るほどうれしくなる。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)