たくら)” の例文
「何、北条殿の御意ぎょいで、これにせいを伏せておらるるとか。——さては、われわれのたくらみが、く先方に洩れているのではあるまいか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梶はそんなに反対の安全率の面から探してみた。絶えず隙間すきまねらう兇器の群れや、嫉視しっし中傷ちゅうしょうの起すほのおは何をたくらむか知れたものでもない。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その話しぶりから察すれば、この男は前にも誰かに自分の変ったたくらみについて語って、全く相手にされなかった不満さを持っているらしい。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
憤怒があればこそ罰をたくらむのであり、罰を謀むから、正しい心を欲するのであるのに、正しい心を持つには、憤激それ自身が邪魔となるのである。
職工と微笑 (新字新仮名) / 松永延造(著)
「旦那は年齢としが年齢だ。なあ、それにお前さんはその瑞々みずみずしさ。そこはこちとらも察しが届くが、それにしても久松留守たあよくもたくらんだもんさのう。」
「実は君達が奇襲をたくらんでいるという密告が或筋から来た。それで手ぐすねひいて待っていたところさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その後六兵衛も転げ込んだが、二人は、深いたくらみがあるから表向きは他人のように暮らしたんだよ
公平に云って、上の人間はゴウマンで、恐ろしいことをもうけのために「平気」でたくらんだ。漁夫や船員はそれにウマウマ落ち込んで行った。——それは見ていられなかった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「そうだ。グヰンはこの土地で何事か大事な事をたくらんでいるに違いない。」と彼は思った。彼女は何処へゆくか知らぬが、服装みなりから考えても今夜はこの土地に宿とまる事は明かである。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
父をうにかだまして娘を浚つて行く、それで娘にも、彼女の恋人にも、苦痛を与へればよいのだと相手がたくらんでゐるらしいのが、瑠璃子には、余りに判り過ぎてゐるやうに思へた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
詳しいたくらみはさぐり得ませぬが、あらましを察するに、柴田党の面々は、どうしても、筑前殿を生かしておけぬとしておりまする。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは何か必ず今夜、たくらみが起るにちがいない。——その謀みはなお商業団体と群衆とを結束させんがための謀みであることは、分っているのだ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その後六兵衞も轉げ込んだが、二人は、深いたくらみがあるから表向は他人のやうに暮したんだよ
父をうにかだまして娘を浚って行く、それで娘にも、彼女の恋人にも、苦痛を与えればよいのだと相手がたくらんでいるらしいのが、瑠璃子には、余りにわかり過ぎているように思えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お前が言うにゃあ昨日のうちに細工せえくしてあるというから、俺あ一件のつもりで剥がしてきたんだ。なんだな、やい、お前は珊瑚玉あ猫婆きめやがって、この俺を一ぺいめようとたくらんだんだな。
ははあ、さてはそういう口実のもとに、何ぞたくらんでいるのだろうか。いやいや、それにしては、あの人々に何の邪気も殺気も感じられないが。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私にしてみればただこの仕事を覚え込んでおくだけでそれで生涯の活計を立てようなどとはたくらんでいるのでは決してないのだが、そんなことをいったって軽部には分るものでもなし
機械 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「丞相の身も未だ冷えぬうちに、乱をたくらむほどな悪党は蜀にはいない筈だ。日頃を悔いて自ら首を、霊車に供え奉りに来たか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから私はもう屋敷が何をたくらんでいようと捨てておいた。
機械 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「それもこれも、みな陳大夫陳登父子おやこたくらみ事、さてさて首尾よくもかかったり、悔めど遅し、さむれど及ばず。——ああ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たくらんだものの仕事のように思うんです。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「いや、さなきだに、人の目がとがっておる。白昼、面をつつんで歩いては、半兵衛重治が、また何事かたくらむぞと、うるさい目がささやこうも知れぬ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまれその方が、わが寛仁かんじんに甘え、すこしも改悛かいしゅんの色なく、将軍の寵におごるさる人物とこころをあわせ、二奸一体にかんいったいとなって、不逞ふていたくらみをつづけ参ったことはいいのがれあるまいが
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『解りました。さては、卑劣なたくらみ事をして、甚三郎様をおとし入れた下手人は……?』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどいつか、才走さいはしるの余り、奉公人たる身分を逸脱して、外には権門とむすび、藩中にまた自己中心の一藩をつくり、いつか際限なき欲望をいだいて不逞なたくらみをいたすようになりました
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「十兵衛どの。この風に乗じて、野武士どもが、何をたくらむのでござろうか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この春のころ、あれほどにまで、予が、自身のいかりをなだめて、心の底よりさとしおいたるに——汝、なお迷妄めいもうまさず、前非を悔いず、前にも増して悪行をたくらみおるな。天をおそれぬしれ者めが
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして、傲岸、野性残忍というような、人のむ性格が直木のいうほど武蔵の全貌であったとしたらば、試合といわず、たくらんでも彼の生命をたおしてみたい気持を当時の人間は誘発されたであろう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不穏なたくらみがあると聞けば、すぐこの身を思うて、白金しろがねの下屋敷へおかくまい申そうとか、米沢の本城へお越しあれとか、遙々はるばる、遠い国許から心を寄せて案じてくれるのに引換えて、その主君のことばを
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まったく、将門のたくらみに依るものです」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)