誘拐ゆうかい)” の例文
「なるほど、それじゃいつか牛丸君を誘拐ゆうかいした、六天山塞ろくてんさんさいの山賊のゆくえをさぐるために、チャンウーの店を監視かんしするというんだね」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その牢人と組んで、博奕ばくち、ゆすり、かたり、誘拐ゆうかいを職業にして立とうとする無頼者ならずものえるし、飲食店や売女もそれにあかりをつける。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中には誘拐ゆうかいや、迷子や、記憶の喪失や、借金逃れもあったでしょうが、昔の人はそんな詮索せんさくをする気もないほど鷹揚おうようだったのでしょう。
皆さん、懺悔ざんげさせて下さい。私は、チャアリイ・ロスを誘拐ゆうかいして世を騒がせたジョウ・ダグラスという者です。相棒と二人でやったんです。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
だが、ちょびひげは、「恋人誘拐ゆうかい引き受け業者」なのだ。「殺人請負業」ほどではないにしても、けっして刑罰をのがれられるものではない。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
コゼット誘拐ゆうかいに関する苦情は、その第一の結果として、自分一身と自分の多くの後ろ暗い仕事の上に法官の慧眼けいがんを向けさせることになるだろう。
「君のお父うさんに東京で会ったことがある。俺がさも君を——照ちゃんと言わせて貰おう、照ちゃんを誘拐ゆうかいしたみたいに、お父うさんから誤解された」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ともかくも人間ひとりが生死も不明の誘拐ゆうかいをされたというんですから、犬やねこがまい子になったのとは、おのずから事が相違しなければならないはずだからです。
真実の人間でございましても、狐とか木精こだまとかいうものが誘拐ゆうかいしてつれて来たのでしょう。かわいそうなことでございます。そうした魔物の住む所なのでございましょう
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
婦女を誘拐ゆうかいした愚劣漢であると同時に、二重結婚までした破廉恥はれんち極まる人非人……。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこは盃盤をそのまま、燭台しょくだいばかり煌々こうこうと明るいが人間は誰もいない。「誘拐ゆうかい」という文字が頭へきたので、我知らずとび出そうとすると、御屏風びょうぶの蔭から赤いひものような物がみえる。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
君に話した毛唐のマドロスというウスノロが、少し精神に異状のある娘を誘拐ゆうかいして連れ出したのがこの舟だ——ここに乗捨てられてある以上は、もう論議無用——あの鳴り物が物を言う。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出かけながら彼は、アデライド姫を誘拐ゆうかいしに行くのだと言った。それは大公爵の令嬢で、かなりきれいだった。ドイツのある小貴族に嫁しているが、数週間両親のもとへ帰って来ていた。
婦女誘拐ゆうかいを職とする、法網くぐりの女衒ぜげんたちのために、仲宿をすることもあるので、女わらべの泣きごえが、世の中に洩れるのをはばかり、庫裡くりの下にあなぐらを掘って、そこに畳をしき込み
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
女は手で下のKに合図をし、肩を上げ下げして、自分はこの誘拐ゆうかいに何も罪がないのだ、ということを示そうとするのだが、この身振りにはたいして残念そうな気持も含まれてはいなかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
それにつけてまずおわび、全く失礼いたしてござるよ。お名をかたって浅草から、いわば、誘拐ゆうかいいたしたので。が、それとて例の獲物、あいつが是非ともほしくてな。そこでちょっと小手細工。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(註五)「」はこのあいだに伝吉の枡屋の娘を誘拐ゆうかいしたり、長窪ながくぼ本陣ほんじん何某へ強請ゆすりに行ったりしたことを伝えている。これも他の諸書に載せてないのを見れば、軽々けいけい真偽しんぎを決することは出来ない。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが誘拐ゆうかいされて屋根のないボウトにみ、何カ月も風雨にさらされて、こんな物をただ一つの玩具おもちゃに一人で遊んでいたのだ。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼らは新聞記事によって、明智小五郎と「人間ひょう」との対立をよく知っていた。明智夫人誘拐ゆうかい事件についても、けさの新聞を読んだばかりだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから春木は、すぐ牛丸君が誘拐ゆうかいされていると、かんづいたわけである。そしてそれはほんとうに正しい観察であった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
上総屋の内儀おしのは、夫の行方不明ゆくえふめいに次いで、たった一人娘のお袖の誘拐ゆうかいで、半病人のようになっており、何を訊いてもらちがあきませんが、そのうちから
モンフェルメイュ村において不思議な事情の下に行なわれたという子供誘拐ゆうかいに関し、セーヌ・エ・オアーズ県からパリーの警視庁へ警察事項の報告が到来した。
どこへだれに誘拐ゆうかいされて行っているかというように疑われているのは気の毒なことであると右近と話し合い、あの秘密の関係も自発的に招いた過失ではないのであるから
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これではまるで俺は子供のころに読んだ黒岩涙香るいこうの探偵小説のなかの人物のようだった。悪漢に誘拐ゆうかいされる哀れな犠牲者にそっくりだ。と思ったのは、恐怖のせいだけではない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
右門の出馬するにいたったこの少年誘拐ゆうかい事件の発端が、すなわちその故障に基因していたのですが、すでに知らるるとおり、あれなる青まゆの女は、生まれが葉茶屋の多情者でしたから
「かれらがもしあの娘を誘拐ゆうかいしたとすれば」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
エンジンが深夜の屋敷町にけたたましく響き渡ったかと思うと、この異様な誘拐ゆうかい自動車は、たちまち明智探偵事務所の門前を遠ざかって行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのことについて今になって気がついた私は、刑務所の門前で運転手に化けると、刑務所の門前で出獄したばかりの彼をうまうまと誘拐ゆうかいしたのだった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしこれではまるで私が誘拐ゆうかいしましたと自首して出るようなもので、そんな馬鹿なことをするやつはあるまい。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
あのとおり美人に化けてその美貌びぼうにつられて通う侍のお客を物色しながら、例の手でこれを眠らし、誘拐ゆうかいしたうえにこれを切支丹へ改宗させて、おもむろに再挙を計ろうとしたためでした。
「お萩を誘拐ゆうかいしたのは」
「確かに誘拐ゆうかいです。シグマが帰って来ました。こいつは坊ちゃんの為に、こんなに傷つくまで忠実に闘ったのです」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いわんや博士においては家出せられるほどの事情は痕跡こんせきほども持って居られない。従ってこれは博士を誘拐ゆうかいしたと見なければならないはなはだ重大刑事事件であります。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ああ、では人間ひょうは、眼早くも、この美しい明智夫人を、次の獲物えものねらっているのであろうか。名探偵自身の若い奥さんを誘拐ゆうかいしようとでもいうのであろうか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それとも脳麻痺力まひりょくのある電波であったか、そのところは、はっきりしないが、何者かのたくらみによって僕がホテルの一室から他の場所へ誘拐ゆうかいされたことはたしかだった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
綾子がただ一人で自動車に乗ったとすれば、想像していたような誘拐ゆうかいではなく、自由意志と見るほかはなく、したがって彼女は逃亡したということになるからであった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
牛丸平太郎は、みんなにかわいがられていた少年だから、この誘拐ゆうかい事件の反響も大きかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なるほど、そこに五十万円のねうちがあるというわけですね。むろん、誘拐ゆうかいでしょうね」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
用事があって、地下室へ降りて来た戸波博士は、待ち構えていた怪しい一団の手によって、何の苦もなく、誘拐ゆうかいされたことは、山太郎の説明によって、間もなく、明かになった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すると、その青年たちが、手分けをして、地上の娘を誘拐ゆうかいしてくるというわけですね」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
拝啓、来る十一月十一日を期し、貴殿夫人繭子まゆこどのを誘拐ゆうかいいたすべく候間お渡し下されたく、万一それに応ぜざるときは貴殿は不愉快なる目にうべく候。右念のため。草々敬具。烏啼天狗生拝”
「そうなの。でも、ただの少女誘拐ゆうかいともちがうのよ。その娘さんを種に、お父さんの持っている日本一のダイヤモンドを頂戴しようってわけなの。お父さんていうのは、大阪の大きな宝石商なのよ」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
誘拐ゆうかいする目的だったのでしょう。とにかく、近頃めずらしい事件です
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士がX号に誘拐ゆうかいせられて、この研究所へもどって来、そしてその両眼りょうがんがはっきり見えるようになって以来、博士はたいへん元気になったけれど五少年には親しみにくいものとなってしまったのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早いところ誘拐ゆうかいしてしまえ
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)