裏階子うらばしご)” の例文
が、とほされた部屋へやは、すぐ突當つきあたりがかべで、其處そこからりる裏階子うらばしごくちえない。で、湯殿ゆどのへは大𢌞おほまはりしないとかれぬ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五月十五日の夕方、三四度ドカドカと大勢して裏階子うらばしごをかけ上る跫音あしおとが留置場まで聞えた。それきり何のこともない。
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
自分の新しい化粧法がどんなふうに岡の目を刺激するか、葉子は子供らしくそれを試みてみたかったのだ。彼女は不意に岡の前に現われようために裏階子うらばしごからそっと登って行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
付て居たりし折から顏色かほいろつねならいきせきと立戻たちもど突然いきなり二階の小座敷へ這入はひりし容子ようす啻事たゞごと成らずと久八が裏階子うらばしごより忍び上りふすまかげたゝずみてうかゞひ居るとは夢にも知らず千太郎はうでこまぬき長庵に欺かれて五十兩かたり取れし殘念さよと覺悟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ですが、裏階子うらばしごの、折曲おれまがるのが、部屋の、まん前にあって、穴のように下廊下へ通うのですから、其処を下りた、と思えば、それきりの事なんです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何も知らなかったらしい岡に、葉子はわずかにそれだけをいって、突然座を立って裏階子うらばしごに急いだ。と、かけ違いに倉地は座敷にはいって来た。強い酒の香がすぐ部屋へやの空気をよごした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……しばらく、行燈部屋あんどんべや裏階子うらばしご三階見霽さんがいみはらし欄干てすりふのは、なんの、何處どこことだとおたづねがあるかもれない。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ばばと黒犬に見える、——その隣室となりの襖際と寝床の裾——皆が沖の方を枕にしました——裾の、袋戸棚との間が、もう一ヶ所かよいで、裏階子うらばしごへ出る、一人立ひとりだちの口で。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でござんさあね。さあ、上っても上っても。……私も可厭いやになってしまいましてね。とんとんと裏階子うらばしご
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何しろ真夜半だ。かわやくのに、裏階子うらばしごを下りると、これが、頑丈な事は、巨巌おおいわ斫開きりひらいたようです。下りると、片側に座敷が五つばかり並んで、向うの端だけ客が泊ったらしい。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行燈部屋あんどんべやそつしのんで、裏階子うらばしごから、三階見霽さんがいみはらし欄干てすり駈上かけあがつたやうである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「鷲尾の三郎案内致せ。鵯越ひよどりごえの逆落しと遣れ。裏階子うらばしごから便所だ、便所だ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亡者の住居すまいに石で裏階子うらばしごを掛けたような、こけすべる落葉のこみち、しかもやぶの下で、老猫おいねこの善良なのがもし化けたら、このほかになりようはなさそうな、べろんとけて、くちゃくちゃと目の赤い
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また雪洞がぽっとあかくなって、ややあって、遥かに暗い裏階子うらばしごへ消えるはずのが、今夜は廊下の真中まんなかを、ト一列になって、水彩色みずさいしきの燈籠の絵の浮いて出たように、すらすらこなたへ引返ひっかえして来て
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……川柳にさえあるのです……(細首をつかんで遣手やりて蔵へ入れ)……そのかぼそい遊女の責殺された幻が裏階子うらばしごたたずんだり、火の車を引いて鬼が駆けたり、真夜中の戸障子が縁の方から、幾重いくえにも
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新吉原のまざりみせ旭丸屋あさひまるや裏階子うらばしごで、幇間たいこもち次郎庵じろあんが三つならんだ真中まんなかかわやで肝を消し、表大広間へ遁上にげのぼる、その階子の中段で、やせた遊女おいらんが崩れた島田で、うつむけにさめざめ泣いているのを
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)